ゲーム初日〈3〉
俺――
だがその紛れもない事実を揺るがす大事件が起きた。
それが女体化である。
自分の感情をここで明確にさせると、最初から完全に性転換されてしまっていたのなら諦めがついて女性として生きる決心をした。そこはもう男らしく諦めよう。
でも徐々に男から女へと変わっていく、この生殺し感が本当に
今まだ男の肉体なのだ。顔も体の肉付きも関係なく男なのだ。
今まで男として生きてきたこの十数年、今の自分に愛着もあるし、男としてのプライドもある。それが崩れかかっていくのなら抵抗するのが普通であろう。
激闘に疲れ果てたのは事実ではあるが、この
**
闇騎士撃退からのレベリングは順調だった。
日本人アカウントの最初の街――ジパング。
スタート開始時は母国を模した街からとなっている。どの街でも周辺にいるモンスターはRPGゲームおなじみのスライムからはじまり、ゴブリンやオーク、強キャラとして凶暴な
モンスターレベルは1〜35ほど。一応自分のレベルに応じたレベルのモンスターが出現する仕様らしいのだが、出だしから闇騎士に遭遇してしまった俺はそんな仕様は信じない。
闇騎士の斬撃スキルまで使えるようになった俺は、根刮ぎ狩り尽くす勢いで、女体化の鬱憤をこれでもかと晴らすつもりでモンスターを見つけては始末していく。
パーティーを組んでいれば、トドメとかの概念はないようで一律均等に経験値が振り分けられる。つまり俺一人がモンスターと戦うだけで美羽のレベルは上がっていくのだが、それは悪手なのがこのゲーム。
モンスターやノンプレイヤーキャラ、
同じ種族のモンスターでもレベルが上がるにつれ複雑な動きをしてくるし、魔法を使う個体、物理特化であったりスピードで撹乱したりと戦法が違うしステータスも個体それぞれ。
戦い慣れせずにレベルだけ上がると後で痛いしっぺ返しを喰らうことになってしまうのだ。
美羽に関してはそんな心配はしなくていい。
好きなように動いてはモンスターを狩っていく。柔軟性というか適応能力が高いのか、初日とは思えないほど機敏な動きを見せている。
調子に乗ってゴブリンの
**
「日本語?」
「日本語だね」
「ごちゃごちゃうるせー。仲間内で何騒いでやがる。テメェらが死ぬかおいらが死ぬかそれだけのことだろう? さっさとかかっこい」
集落のゴブリン最後の生き残り。ゴブリンをさらに小さくした人間で言うところの小学生くらいの男の子だ。
他のゴブリンたちは、ガ行の
罪悪感というのか、彼らは暮らしていたところを俺たちに見つかっただけで、俺等は彼等からすると
「どうした? 散々さっきまでおいらの仲間や家族を皆殺しにしておいて今更ビビってのかよ」
両手に持った斧を抱えてゴブリンはかかってくる。今までの大人のゴブリンたちより遥かに動きが遅い。
殺すことは簡単に出来る。
だが、心がそれを拒否する。妹の美羽もどうしていいか分からない表情をしていた。
仕方ないが話し合いは無理だろう。
その選択肢を奪ったのは俺だから。
「強くなってから俺を殺しに来い。いつでも相手になってやる」
俺はそう言うことしか出来ずに、斧目掛けて斬撃を放ち武器を吹き飛ばす。そして流れるようにゴブリンの背後に回り手刀を首筋に当て気絶させた。
何の解決もしていない。後回しにしただけである。
「……ちきしょお……」
悔しさを吐き出してゴブリンは気絶した。出来る限りの手加減は出来たから死なせてはいないと思うが、後味の悪さに不快感が残り、気持ちが晴れない。暴れて気持ちをすっきりさせようとして始めたのに、逆効果になってしまった。
だけどそんな時に物事は動き出す。
『拠点を奪いました。拠点登録をする事が出来ます』
世界の
拠点とは
街や城などノンプレイヤーキャラが住んでいる場所、もしくはプレイヤーが独自に持っている土地、教会、神殿、神社やお寺などの宗教施設などがある。
プレイヤーが持っている私有地は許可なくして入ることは出来ない。当たり前の話ではあるが、このドリームワールド内でも不法侵入で捕まるかお尋ね者にされて賞金をかけられてしまう。
宗教施設は入信すると利用可能になる。
俺たちはその私有地とも呼べる拠点を手に入れたのだ。ゴブリンを倒して奪ったのだけれど。
そしてメールの中に宝箱があった。中身はゴブリンの魂や持っていた財宝類などだった。
「あ、まこちゃん悪い顔してる」
ふふふふふ。
造れるぞ。拠点に何作ろうが所有者の勝手である。好きに出来るのだ。
だが俺がしたいことをするにはお金とレベルが圧倒的に不足していた。
「上げるっきゃ無い」「足りないなら強くなるぞ」
「人間はやめないでね〜。私は先に落ちまーす」
美羽はそう言って先にログアウトする。時刻を見ればいいものを、新たに見せられた餌に喰いつてしまった俺は一点集中野郎と化した。
他の事を気にならなくなり、視野が狭くなった状態である。
そう、明日の学校のこととか完全に忘れていた。
充実した時間を過ごしたのは間違いない。
楽しかったし面白かった。嬉々とした笑顔で思いついたことを出来ることから遂行していく。
「レベルアップに拠点強化、モンスターの確保にやること山積みだぜ」
気付いたら朝だった。
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