ゲーム初日〈2〉

 淡い光が収まって、静寂を取り戻した18時20分頃。

 ドリームワールドを開始して初めて降り立った村はこれといって何も無い平凡な村だった。

 そのため大きな街へ向かう道中。一本道を歩いている途中で闇騎士に襲われた。

 そして奇跡的に逃亡劇を終えた今、周りの景色は悲惨な光景だった。

 爆発や斬撃の爪痕は、無関係な動物やモンスターも巻き込んでいたため遺体があちらこちらに見受けられる。斬撃により倒された木々が無差別に散らばり、爆発は大穴をあけて土や石を掘り起こした。

 緑の大地を至る所、裸にしたその破壊力とその結果がそこに見えた。

 今思えばよく生き残れたものである。


「まこちゃん、あの騎士ってもしかして誰かの捨て垢だったのかな?」


「あっ!」


 そうだ。そうに違いない。

 妹の美羽に言われて初めてその考えに思い至る。所有者を失った――ようは運営に強制的に捨てさせられたアカウントなのだ。

 キャラメイクは全て現実の個人情報を元に創られる。目を大きくしたり身長を伸ばしたりと弄ることは不正扱いされているために不可能なのだ。

 あの闇騎士は女の子が一度死んだため、アカウントごと破棄されたキャラ――闇騎士がこの場所を放浪していたのだろう。

 だけど、それならこの中途半端な女体化はどうしてなのだろうか?


**


 あなたは異世界に行ってみたいですか? 過酷な現実に疲れ果てているあなたへ、現実逃避をお薦めするReal Connect System。 略してRCS。世界初にして唯一無二の超ハイテクノロジーがあなたを別世界へいざないます 。


 異世界と現実を繋ぐあなたのためのRPG


 今から約十年程前、俺は小学生だった。

 その年だけこういう感じのコマーシャルが至る各地で放送された。

 友達の評価やニュース番組から受けた印象からいうと、本機が1億ドル以上することから誰が買うのかと馬鹿にする人が大半だった気がする。

 しかし最初の成功者が出ると世界の評価がガラリと変わった。その理由はゲームで得たレベルやスキルを現実世界に引き継げること、ゲットしたアイテムを持ち帰れること、ゲーム通貨を現実の円やドルと交換出来るという発見がされたこと。


 ゲームの本機は世界中に100台しか売られていない。99.99%は非正規品であり海賊版なのだ。

 正規品と海賊版の違いは安全性にある。ただその海賊版の中でもピンキリで、最高級品から最底辺まである。その最底辺でも数百万円の値段がつけられているから驚きだ。


 ゲーム内でのダメージは現実の肉体へと直結してしまう。それが正規品では肉体ダメージは殆ど無いらしい。

 海賊版最底辺は最悪死に至る。そしてこのゲームでの死者は毎年のように出ている。それも世界中あちこちで。

 世界中の政府はこのゲームに対しては無反応を貫いているので、死者が多くても作ったゲーム関係者を逮捕したりしない。レベルアップという面でも、持ち帰ったアイテムが国にもたらす経済効果やエネルギー不足の解消といった貢献度的にも、逮捕したくても逮捕できないという悲しい現実がある。


 つまり俺は現実的に死にかけていたわけだ。あの致死ダメージでは、本当の本当に死んでもおかしくなかった。


 このゲームで死んでしまった場合、そのアカウントは削除される。つまり今まで育て上げたキャラを捨てなければならないという残酷なシステムがある。

 つまり捨て垢というのは誰かのゲームキャラが死んでしまったために、アカウントが一度削除され、所有者がいなくなって放浪しているキャラなのである。

 簡単に言うと魂がないアンデットに近い。

 本人が死なない限りアカウントも作り直せるが、海賊版は死ななくてもダメージが残るので再起できるかはその時の運次第。

 

「おそらく運営にアカウントを消されるはずだったのは俺の方。だが身代わりの札を突っ込まれた闇騎士がその削除デリートを引き受けた形となった。でも俺が闇騎士のアカウントと入れ替わった理由が分からない」


「案外あれじゃない? 字が違うけど身変わる・・・・。体をチェンジする的な」


 何だそれ? あ~もう嫌だ。なんか考えてもよく分からないし疲れた。


「もう疲れたし終わろうぜ」


「え〜? まこちゃんだけ強くなってズルい。私も格好良く可愛くなりたい」


「身代わりの札バグは駄目だからな!」


「まこちゃんのケチんぼ」


 ここははっきり言おう。バグ故に何が起きるかわからない危険な行為を妹にやらせるわけにはいかない。お兄ちゃんは断固阻止するぞ。


「じゃあレベルアップに付き合って」


 夜が遅くなってしまいそうだが、妹が満足するまでレベルアップに付き合うしかなさそうだ。だがレベルアップがさらなる悲劇――女体化進行を巻き起こすことになろうとは思ってもいなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る