十一
くすぐるようにかかる白銀色の髪、それと同じ色の爪は鋭く、牙も伸びている。何よりこの、蛇珀に帯びた柔らかな懐かしい光は……。
「……どうした、いろり?」
早く続きをしたいと言わんばかりに急かすように蛇珀が問う。
高揚のあまり一時的に神の姿に戻ってしまった蛇珀だが、本人は気づいていない。それほどまでにいろりに夢中であった。
ならば蛇珀が自分から気がつくまで、このことは言わないでおこうと、いろりは決めた。
優しい蛇珀のことだから、言ってしまえばきっと自身を傷つけるのではないかと躊躇してしまうとわかっていたからだ。
いろりは驚きから、ゆっくりと穏やかな微笑みへと表情を変えると、目の前にある蛇珀の顔にそっと手を伸ばした。
「……いいえ、なんでもありません。あまりに綺麗なお姿なので、見惚れてしまっただけです」
「……それは、こっちの台詞だ」
いろりはありのままの蛇珀を受け入れた。
壊すなどとんでもない。
蛇珀は己の快楽よりもいろりの身を案じ、もどかしいほど大切に抱いた。
「……本当は、ずっと……こう、したかった」
耳元に響く、低く掠れた声。
愛おしさに息を詰め、歓喜の涙を流しながら、いろりは必死に蛇珀の背にしがみついた。
「じゃは、さ、ま……いろりは、も、死んでも、かまいま、せん……」
「……死んでも、離さねえからな」
痛みと呼ぶにはあまりにも甘美な愛の行為に、いろりは少女から女へ、花開く。
他の誰でもない、蛇珀ただ、一人のために。その命、尽きるまで。
流れる夜風、靡く草花、星の瞬きと、月のともしび。
そのすべてが神と人の恋の成就を祝うかのように、優しく見守っていた。
いろりは高校を卒業後、巫女になり神主の蛇珀の側に片時も離れず寄り添った。
ただでさえ有名であった狐神社は、美男美女の夫婦がいると噂になり、縁結びのご利益もあるのではとさらなる繁栄を迎えた。
二人は愛の結晶にも恵まれ、無病息災で幸福な日々を過ごした。
楽しき時が過ぎるのは早い。
春夏秋冬、始まりはただ思うがままに喜び、そして幸せを噛みしめるように、やがて時を惜しむように。
いろりとの日々は、色彩豊かな折り紙を重ねるかのような美しい思い出となり、蛇珀の心に残った。
どれだけ愛し合っていても、ともに朽ちることは許されない。
それでも、蛇珀に後悔などなかった。
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