十一

「ッ――は……」

 い、と言い終わる前に待ちきれなかった蛇珀がいろりの答えごと唇を奪った。

 触れては離れ、触れては離れを繰り返す口づけは次第に強引さを増し、深いものへと変わる。

 ついに蛇珀は力任せにいろりを地面に押し倒した。

 何度も角度を変え、いろりの小さな口の隙間から潜り込ませた舌で、緊張で震えるそれを捕らえ、息もできぬほど絡ませる。

 もう蛇珀が止まらない。

 ここがどこかも忘れ、いろりのセーラー服を乱し、耳に、首筋に、噛みつくように唇を這わせてゆく。

「いろり、いろりっ……逢いたかった、逢いたくて、お前の香りが恋しくて、どうにかなりそうだった……!」

 切羽詰まった吐息とともに耳元でそんな告白をされては、いろりの中で眠っている“女”が身体の奥から這い上がり顔を出す。

 初めての経験にいろりは尋常ではない動悸と火照りを感じていたが、やめてほしいなど微塵も思わなかった。

 蛇珀の牙が、爪がやや肌に食い込む痛みさえも愛おしい。

 いつも大切に扱ってくれるこの神が、獣のように自身を求める姿は、いろりに至福の悦びだけを与えた。

「じゃは、さ、ま、私も、逢いたかった、です……寂しかったです……!」

「いろ、りぃ……!」

もう、もう、このまま蛇珀様のものに――。

 いろりがそんなことを考えた時だった。

 ――不意に、いろりの胸元が温かく光る。

 それに気づいた二人は我に返ると、顔を見合わせて、白銀色の明かりを帯びたそこに目をやった。

 いろりの左胸と鎖骨の間に位置するそこに、何やらぼんやりと浮かび上がる紋章のようなもの。

 次第に色濃く形を成したそれは、直径三センチほどの丸い縁に囲まれた、蛇の刻印であった。

 やがて光が収まると、再度蛇珀といろりは互いの目を見た。

「こ、これって……」

「天獄が言ってた、婚礼の儀……ってやつか?」

 二人が察した通り、認められた二人が愛を持ち接吻を交わすと、この印が刻まれることになっていた。

 婚礼の儀は今完了されたのである。

 くっきりと目に見えた愛の証に、いろりは蛇珀のものになれたのだと強く感じ、喜びの涙を浮かばせた。

「……私、私……本当に、蛇珀様のお嫁さんになれたんですね……もう、蛇珀様と、ずっと一緒に、いてもいいんですね……!」

「――当たり前だろっ……!!」

 感極まり美しく微笑むいろりに、蛇珀はまた熱く唇を重ねた。

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