第6話 ピリオド!
翌日、僕と愛子は大阪に帰り僕の母を見舞った。父から、
「お母さんは、半年もたないらしい。そのことは本人も知っている」
と聞かされていた。僕は心の準備ができないまま、母と会った。何を言っていいのか? わからない。だが、母は死を受け入れていたようで、穏やかだった。
「僕にしてほしいことは無い? 僕に何が出来る?」
僕は、ようやくそれだけ言えた。母は言った。
「平日は、元気に働いてほしい。その方が安心出来るから。でも、休日は、ごめんやけど出来るだけ会いに来てほしい。親子の時間を過ごしたいから」
「わかった! 休みの日は来るから!」
滋賀(湖北)の家に帰り、僕は愛子に言った。
「というわけやから、お袋が死ぬまで休みは全て大阪へお見舞いや」
「え! 何を言うてるの?」
「え! どういうこと?」
「休みの日に帰ったらアカンよ」
「え! どういうこと?」
「私も崔君しか話し相手がいなくて、寂しくて限界やねん」
「え! 何が言いたいの?」
「だから、休みの日は私の相手をしなさい」
「え! 大阪に帰ったらアカンの? 見舞いに行ったらアカンの?」
「アカン、そんなことされたら私が耐えられへん」
「ほな、大阪に一緒に来てくれたらええやん」
「アカン、義理の親って他人やんか、私が気を遣う。しんどい。嫌や」
「ほな、お袋が亡くなるまで実家に帰るとか」
「そんなん、出戻りみたいで恥ずかしいわ、嫌や」
「愛子、親が死ぬんやぞ、それも半年以内に」
「わかってる」
「自分の親やったら、そんなこと言うてられへんやろ」
「そうかもしれへん」
「たった半年やで」
「うん、半年。でも半年は長い」
その時、僕は本当にキレた。今まで我慢してきた分も含めて激怒した。
「大変な時に支え合うのが家族やろ? 夫婦やろ? 今がその大変な時なんや。今、支え合われへんのやったら夫婦でもなければ家族でもないわ! 出て行け-!」
その後、愛子が何を言っても僕は考えを変えなかった。
「出て行け! 離婚や! 今までも愛子のヒステリーに毎晩耐えたり、いろいろあったけど、もう許されへん、我慢の限界や、僕は離婚すると決めたんや!」
愛子は泣き出したが、僕は完璧に無視した。朝方になって、愛子もようやく離婚を受け入れた。だが、
「心の準備が必要だから、離婚届を出すのは少し待ってほしい」
と言った。
「少しって、どれくらい?」
「2~3ヶ月」
「わかった。離婚届けは郵送で送る。気持ちが落ち着いたら記入、捺印してこっちに返してくれ。服とか靴とか、実家に持っていきたい物は自分で取りに来てくれ」
仕事から帰ると、まだ愛子がいた。
「まだ実家に帰ってなかったんか」
「崔君、やっぱり離婚は許してくれへん?」
「ダメ、離婚する。そう決めたって言うたやろ? 僕の気持ちも考えも変わらん」
「出戻り、恥ずかしい」
「またそれか、愛子は『恥ずかしい』とか、恥とか、そればっかりやな」
「恥はかきたくないもん」
「愛子がそういう人間やから、夫婦でいられへんねん、わからんのか?」
「離婚、嫌や……」
「明日には実家に帰れよ。荷物、送ってもええし、今度荷物だけ取りに来てもええけど。僕は飯は食ってきたから風呂に入って寝る」
翌日、仕事から帰ると愛子がいなかった。誰もいない部屋。寂しくなるかと思っていたが、逆だった。スッキリして爽快だった。僕は、愛子のことを心の底から嫌だと思っていたのだと気付いた。ヒステリーが無いので、その分睡眠時間も増えた。
それから、休みの度に大阪へ母を見舞いに行ったが、半年どころか4ヶ月で母は亡くなった。愛子から届いた離婚届を役所に提出した、その2週間後に母は亡くなった。最後は、母が喜ぶような報告がしたかった。だが、離婚というバッドニュースしか報告できなかった。悲しかった。そして寂しかった。
結婚して、離婚届けを提出するまで1年半、短い結婚生活だった。愛子を選んでしまったことを悔いた。そして、今でも悔いている。今では笑って話せるけれど。
※最後までお読みいただき、ありがとうございました。最初に書きましたように、今回は特に大きなポイントだけしか書いていません。詳細は、今後書く予定の長編で書かせていただきます。しばらくして長編がスタートしましたら、そちらもお読みいただけると嬉しいです。
最初の離婚をした理由! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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