第5話  結婚生活!

 少しマシになっていたが、まだ新工場立ち上げの残業は続いていた。もう少しの辛抱だった。新工場が安定して稼働すれば、残業はかなり減る。


 だが、そうなるまで、とてももたない! 胃が痛い! 腹が痛い! 食道潰瘍も見つかった。時々、血ゲロを吐くようになった。血便も出た。帰宅は夜の10時前後か11時か? 帰ると愛子が僕にヒステリーをぶつけるために待っている。


 愛子がヒステリックになると、何を言っているのかわからない時も多い。ただ、怒鳴っているだけだ。まあ、いつも言うのは、“私は崔君がいないと話し相手もいなくて孤独で耐えられないのよ!”ということだった。


 テニススクールに行かせた。パートにも行かせた。友人(話し相手)が出来るようにいろいろやらせてみた。だが、愛子は1人も友人(話し相手)を作ることが出来なかった。で、ますますヒステリーが悪化して、至近距離で茶碗をぶつけられるようになった。額に茶碗をぶつけられるのは痛かった。反撃はしなかったけれど。


 その頃、“早く家に帰ってあげられない僕が悪い”と思い込んでいた。だから、ずっと深夜まで愛子のヒステリーに付き合っていた。


 ずっと寝不足なので、休日は寝たい。だが、愛子は布団から僕を引きずり出す。


「頼むから、もう少し寝かせてくれ」

「アカン、私をどこかに連れて行って!」


僕は愛子に労ってもらったことが無い。


 当時、僕は残業手当で通常の倍の給料をもらっていた。なのに、“遊びに行こう”というくせに、遊びに行ったときのお金は僕の小遣いから出せと言われた。僕は愛子に給料を全部渡して小遣い制だった。小遣いは会社の人達と飲みに行くのに必要だ。


「夫婦で遊びに行く分には、愛子に渡しているお金から出してや」

「嫌や、貯金したいもん」


 愛子の趣味は貯金だった。日頃、“残業せずに帰って来てくれ!”と言うくせに、給与明細を見る時はニヤニヤする。僕は愛子のそういうところも嫌いだった。


 愛子は同じ服ばかり着ていた。僕は、自分の嫁には小ぎれいにして欲しかった。


「服、買えや」

「嫌や、お金がもったいないもん」

「充分、給料は渡してるやろ」

「貯金が減るのは嫌やねん」

「ほな、これで買えや」


 僕は愛子にお金を渡した。だが、やっぱり愛子は同じ服ばかり着ていた。


「服を買うために渡したお金は?」

「貯金に回した」

「ほな、返せ-!」


 そんな愛子だった。愛子の言動は、僕にとっては腹が立つものばかりだった。


 愛子は料理も殺人的に下手だった。“素材の味を活かす”という言葉があるが、愛子の料理は素材の味しかしなかった。想像していただけるだろうか? 例えば“ほうれん草のおひたし!”、生のほうれん草と水の味しかしないのだ。たまりかねて醤油を取ろうとしたら、


「私の味付けが気に入らんの?」


と、醤油やソースをかけることは禁じられた。いやいや、味付けって? 味が付いてないんですけどー! 僕はいつも目をつぶってお茶で流し込んでいた。毎日の夕食が不味いということが、こんなにツライとは思わなかった。


 愛子は暇だから家捜しをした。不満しか無い新婚生活、或る日、愛子は見ていて腹が立つくらいに上機嫌だった。


「なんでそんなに機嫌がええねん?」

「臨時収入があったから」

「臨時収入?」

「これ!」

「それは僕のへそくりやんか、元のところに戻しとけよ」

「貯金に回す!」

「ほな、愛子も自分のへそくりを出せや」


 愛子は僕のへそくりを僕に返した。ぶっちゃけ、その頃の僕は、残業代、住宅手当、配偶者手当のおかげで年収はおよそ600万円だった。2人で暮らすのには充分では? と思うのだが。愛子はお金に狂っているとしか思えなかった。


 “こんな嫁、嫌や-!”と、つくづく思った。もう、僕は冷め切っていた。愛子も、僕を愛していなかったと思う。愛していたら、僕の体調を気遣うはずだ。結婚してから、ますます愛子の欠点が見つかっていった。


 

 それから、愛子はいろいろやらかしてくれた。会社の人を巻きこんでやらかしたこともあった。僕の家族を巻きこんだこともある。簡単に言うと、僕は何度も愛子に恥をかかされた。僕は今でも愛子を恨んでいる。だが、詳細は今後書く予定の長編のために置いておく。



 抜け出せない地獄の中、或る晩、電話がかかってきた。父からだった。


「どないしたん?」

「大変や! お母さんが癌や!」


 

 僕は気を失いそうになった。







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