第4話  トラブル!

※最初に書きましたが、ここでは詳細には書きません。書きすぎると、今後書く予定の長編で書くことが無くなりますので。簡略化して進め続けます。



 或る日、僕は久しぶりに大阪の実家に帰っていた。僕の両親と僕、愛子で夕食を食べに行った。僕の母いわく、愛子がすごく寂しそうな目をしていたらしい。それで、母がとんでもない提案をしてきた。


「今は新工場の立ち上げという非常事態やから、人事と話して特例で寮で一緒に暮らす許可をもらったら? 先に同居して、式が後になってもええやんか」

「いやいや、お袋、何を言い出すねん! そんな特例が許されるわけがないやろ? 中小企業やったら社長の一声でどうにかなるかもしれへんけど、大手の企業は社内規定を遵守するから、絶対に無理やで」


 そう、その時の僕は大手の製薬会社に勤めていたのだ。


「いや、いける! 人事に相談しなさい」

「いやいや、お袋も大企業に勤めてたんやからわかるやろ? 無理や」


 母も若い頃は大企業に勤めていた。化学メーカーだった。


「ええから、相談しなさい!」



 僕は絶対に無理だと確信していた。だから、愛子に言った。


「お袋はあんなこと言ってたけど、人事に言うても絶対にそんな特例は認めてくれへんから、誰にも言うたらアカンで! 言うたら愛子が恥をかくから」


 愛子はニヤニヤ笑っていた。その笑顔が怖かった。


 言われた通り、人事に相談してみた。やっぱり、“そんな特例は認められない”と言われてアッサリと終わった。まあ、予想通りだった。


 ところが、そのことを愛子に報告したら、愛子が号泣した。


「どないしたんや? そんなに早く結婚したかったんか?」

「籍を入れて、滋賀の寮に住むって、学生結婚するって、みんなに言うてしもた」

「なんで言うたんや! あれだけ“言うな!”って言うたやろ」

「私、恥ずかしい! 恥かかされたー!」

「おいおい、恥かかされたって、どういうことやねん?」



 それから、愛子の態度が更に変わった。ヒステリーがひどくなったのだ。金曜から日曜まで来るだけじゃない。平日も毎晩電話。勿論、夜遅い時間だった。1時間半から2時間はヒステリックに怒鳴られまくって終わる。僕は平日も睡眠不足になった。



 僕は、勤めていた工場まで自動車通勤だった。或る日、心身の疲労からか居眠り運転をしてしまった。眠ったのは一瞬だと思うが、右折しようとしていた大型トラックの側面に僕の車が突っ込んだ。トラックのボディーの下に僕の車が潜り込み、車の屋根がめくれ上がった。僕は奇跡的に無傷だった。


 そのことを愛子に話すと、“ふーん”で終わらされた。


「僕のこと、心配してくれへんの?」

「だって、無傷やったんやろ? ほな、ええやん」


 僕は、愛子の愛情を感じられなくなっていった。愛子からすれば、僕が愛子に恥をかかせた? ことを恨んでいるのだろう。だから聞いてみた。


「本音を聞かせてほしい。まだ僕と結婚したいか? 僕でええんか?」

「結婚するに決まってるやんか、婚約破棄なんか恥ずかしいわ」

「愛子は“恥ずかしい”とか、“恥をかいた”とか、そればっかりやんか、それで何十年も一緒に暮らせるんか?」

「暮らすわ」



 やがて、挙式の準備が始まった。ブライダルコンサルティングの会社を頼りつつ、式場選びから始まったと思う。


「愛子、ここ、どう思う?」


 愛子はニヤニヤするだけで、“いい”とも“嫌”とも言わない。


「愛子、ここの方がええか?」


またニヤニヤするだけ。何回聞いても、同じことの繰り返し。何回も何回も何回も何回も聞いたが、愛子は自分の意見を言わない。


「ほな、ここにしようや、ええんやろ?」


 と言うと、愛子は泣く。


「なんで泣くねん?」

「崔君、1人で決めてしまう。私は一緒に決めたいのに」

「愛子は自分の意見を言わへんやんか。意見を言ってくれないと、一緒に決めるとか無理やんか。話し合いにならへんもん」

「崔君、ヒドイわ」


 僕は我慢の限界を越えた。


「ほな、もう全部愛子が決めてくれ。僕は一切口を出さへんから。愛子の好きにしてくれたらええわ」



 式場の関係で、式は7月になった。5月か6月にしたかったが、予約で埋まっていた。まあ、準備が少しずつでも進んでいればいいか。と思っていたら、愛子に対するストレスと残業続きの過労で、僕は身体を壊してしまった。式の2週間前に胃カメラを飲んで、胃潰瘍と十二指腸潰瘍がわかった。式の2日前に内視鏡を入れて腸潰瘍がわかった。愛子は全く心配してくれなかった。



 式の前日まで電話でヒステリーを起こしていた。


「式があるんやから、体調が悪いとか言わんといて。もっとシャキッとしてや!」

「愛子には、僕を労る気持ちは無いんやな」



 式ではフラフラしていた。披露宴では、もっとひどくなった。フーッと気を失いそうになったのだ。僕はフォークを太腿に刺して意識を保つようにした。


 新婚旅行はグァムだったが、勿論、楽しいわけが無かった。新婚旅行でもいろいろあったが、その詳細は、後日書く予定の長編で……。







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