第3話  婚約!

 僕は、愛子か? 景子か? 選ばなくてはならなくなった。


 結論から述べると、僕は愛子を選んだ。僕の母も愛子を気に入っていた。愛子を選ぶまでに時間もかかり、葛藤もあったし、いろいろあったのだが、それは今後書く予定の長編で書こうと思う。ここで書きすぎると、長編で書くことが無くなるので。


 僕は卑怯だが電話で景子と別れ話をした。本当は、会って話すべきだったのだが。


「景子、お別れや」

「なんで? なんで別れなアカンの?」

「好きな女性ができてしまったから」

「私は? 私は何やったん?」

「景子は魅力的やで。一緒にいて、こんなに楽しいのは景子くらいや。景子と付き合っていたら楽しいし、笑いが絶えないし、それはええんやけど、僕は景子を女性として愛せてなかったみたいや」

「そんなん、ヒドイわ」

「うん、ヒドイと思う、ごめん」


 予想通り、景子には泣かれたが、泣き止むのを待ったら最終的には、


「わかった、別れよう」


と言ってくれた。というと、景子がすごくかわいそうに見える(僕も景子はかわいそうだと思っていた)が、しばらくして復活した景子は僕の知人に告っていた。



「彼女と別れたで」

「そうなん? ほな、私も彼氏と別れるわ」


 僕は、愛子は彼氏と別れられないと思っていた。お相手はバイト先の飲食店の社員さんらしいが。


「別れたよ」

「嘘! マジ? どんな感じで別れ話したん?」

「怖くて別れ話が出来へんかったから、女性のオーナーに頼んで別れさせてもらった。バイトも辞める」

「なんやねん、それ? そんな別れ方しか出来へんのか?」

「うん、でも、ちゃんと別れたからええやろ?」


 納得出来ない部分もあったが、僕は愛子と付き合うことになった。


 愛子は結婚願望が強かった。僕も(理由があって)結婚願望が強かった。愛子は大学卒業と同時に結婚することを望んだ。僕の母も望んだ。そして、なんだかんだ言いながら僕もその時は“そうしたい”と思ったのだ。


 給料3ヶ月分の婚約指輪を渡した。愛子のご家族とも会った。後は愛子の卒業を待つだけ。そして、僕と愛子は結ばれた。


 本当に愛子は処女だったのだろうか? 血も出なかったし、痛がるということも無かった。しかもほとんど抵抗を見せずにスグに脱いだ。“脱ぎ慣れてる?”と思ったのは僕の気のせいだっただろうか? 


 愛子が処女かどうか? それはどうでも良かった。嘘をつかれているかどうかが問題だった。嘘をつかれたまま結婚するのは嫌だったのだ。愛子の処女問題、納得はできなかったが僕はもう気にしないことにした。


 ところが、それからが問題だった。その頃、僕は滋賀に転勤になり寮に入っていたのだが、週末、単位の取得をほとんど終えていて卒論しかやることが無い愛子が寮に来るようになった。だが、新工場の立ち上げで僕は残業続き、帰宅は11時から0時くらい。土曜出勤も多かった。だから、金曜の晩から来られてもあまり相手が出来ない。愛子は、“せっかく来たのに独りぼっちやんか!”と怒るようになった。驚いた。あれだけもじもじしていた女性が、いきなりヒステリックになったのだ、僕じゃなくても驚くだろう。


「当分は残業続きやって言うたやんか、無理に来なくてもええから、ヒステリックに騒ぐのは辞めてくれ」

「もう卒論しかなくて暇やもん」

「愛子、料理出来へんのやから、家で料理をお母さんとかお婆ちゃんから習うとか、花嫁修業というと大袈裟やけどやるべきことはあるやろ?」

「そんなことしてても楽しくないもん」

「ほな、バイトせえや、習い事でもええと思うで。自分を忙しくしたらええねん」


 愛子はバイトを始めた。だが、何故か金曜の夜から来る。そして、“なかなか崔君が帰って来ない、話し相手もいない”と言いながら泣く。金曜の晩、ドアを開けると100%泣きながら座っている。


 この人は何回同じことを繰り返すのだろう? と思った。



 そして帰ったら、2~3時間はヒステリー状態になる。僕はヒステリー状態が終わってから風呂に入って寝ていた。11時から0時に帰って来て、2~3時間もヒステリーを受け止めていたら、寝るのは2時とか3時だ。そして翌日も出勤。


 僕は、


「愛子が来ると、寝不足になるからしばらく来ないでくれ」


と言ったが、また金曜の夜にはやって来るのだ。渡していた合い鍵を取り上げようか? と思ったが、鍵は返してくれなかった。



 婚約してから、急に態度が変わったのは明かだ。こんなことで、これから大丈夫なのだろうか? 不安が増すばかりだった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る