第2話  出会いから!

 僕が社会人になった頃、僕には彼女がいた。相手は病院の受付をやっていた景子、同い年。初めて会った時は髪はロングだったのに、一気にショートにしてしまい、そのショートカットが似合ってなくて魅力が減少したスレンダーな虚弱体質。メニエル病でよく目眩を起こして動けなくなる。何度も繁華街でうずくまった景子を病院に連れて行った。お姫様抱っこで。


 そんな或る日、知人の名倉から電話で喫茶店に呼び出された。店に入ると、名倉と二人の女性が待っていた。女性陣は片方はぽっちゃりで片方はスレンダー。


“あ、紹介されるなぁ”


と思った。問題はどちらを紹介されるかだが、スレンダーな黒い長い髪の女性を紹介された。名前は愛子。ぽっちゃりさんの方は名倉の彼女、珠恵というらしい。珠恵と愛子は、同じ大学の友人らしい。


 僕の愛子の第一印象は、“守ってあげたい!”だった。なぜなら、話しかける度に俯いてもじもじして照れていたからだ。今時、こんなに男性に慣れていない女子大生がいるのか? 顔も、言いたくないが景子よりも好みだった。要するに、僕の愛子の第一印象はかなりの好印象だったのだ。運命を感じた(ような気がした)。


 ちなみに、景子とは仲は良かったが、景子に惚れてはいなかった。景子はとにかくトークがおもしろかった。一緒にいて笑いが絶えなかった。僕はいつも景子に笑わせてもらっていた。会話がおもしろいというのも魅力だ。要するに、僕は他に好きな女性もいなかったので、景子と楽しく付き合っていた訳で、景子に女性としての魅力はあまり感じていなかったのだ。


 で、名倉に言われた。


「崔君、愛子ちゃん、どうや?」

「かわいいと思うよ」

「付き合う?」

「それはまだ早いなぁ、一応、僕には彼女がいるから、愛子ちゃんと付き合うなら先に彼女と別れなアカンしなぁ、まだ愛子ちゃんのこと何も知らんし。っていうか、愛子ちゃんが僕を気に入るかどうかもわからへんやんか」


 そこで珠恵が口を挟んだ。


「愛子ちゃん、崔君のことどう思う?」

「どうって?」

「まずデートしてみたい?」

「……うん」

「崔君! 愛子ちゃんは崔君とデートしてみたいって言うてるで」

「ほな、1回デートしてみようか?」


 僕は愛子とデートすることになった。



 水族館に行った。会話は盛り上がったのか? 盛り上がらなかったのか? わからなかった。話しかけると、愛子が微笑みながら俯いてもじもじするからだ。ただ、そんな愛子を“守ってあげたい!”と思う気持ちは強くなっていった。


 食事の後のコーヒータイム、異性経験の話題を振ってみた。こういうことは、最初に話した方がいい。僕は、愛子のもじもじしている姿に違和感も抱いていた。今時、こんな反応をする女子大生がいるのか? 小中高と共学なのに。怪しい。


 そこで、愛子が言った。


「私、処女やで」


僕は、“嘘や-!”と思った。過去に自称処女と付き合ったことがあるので、自称処女には懲りている。処女で無くてもいいのだ。処女じゃないなら処女じゃないと正直に言ってほしい。処女じゃないことよりも嘘をつかれる方が嫌だ。


「でも、僕は付き合ってる彼女がいるからなぁ、愛子と付き合うなら彼女と別れないとアカン。本気で付き合うなら、二股をかけるのは嫌やからな」

「私も……」

「私も? 何?」

「私も彼氏と別れなアカン」

「なんやねん、彼氏いるんかーい! ほな処女っていうのも嘘やろ?」

「そんなことない、まだ体は許してないから」

「でも、愛子ちゃん、もじもじしてばかりでハッキリと発言できへんタイプやろ? そんな感じやったら、求められたら拒まれへんと思うねんけど」

「お願い、信じて!」

「処女じゃなくてもええんやで、問題は正直に話し合えるかどうかや」

「だって、処女やもん」

「わかった、わかった」



 僕は愛子の話を信じていなかった。だが、どうしたものか? 考える時間が必要だった。







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