第7話 未遂ですか?既遂ですか?
あくる朝、目が覚めると窓から差し込む陽射しが眩しくてもう一度目を閉じた、4月も下旬に差し掛かろうとしているのにこの時期の東京はまだまだ朝夕の冷え込みを馬鹿にできない、ひとり暮らしを始める直前「布団位は良い物を持っていきなさい」と母さんが持たせてくれた春秋用の合い掛け羽毛布団は本掛け布団程に暑すぎず厚すぎず今の時季は本当に心地よい…
上京してからひと月が過ぎ昼は大学へ通い其れが終わるとサークル活動やバイトと忙しい毎日だけど生活のリズムも整ってきた、躓きかけた新生活も周りの人達に支えられ…なんだかこれからの自分にも『ちょっと期待しても良いよね?』と思える様にもなってきた…のに…
今朝起きて気付いた…いや!異変に気付いたから目が覚めた…『左腕が動かない!』ベットの上で仰向けに大の字になっている僕は天井を見上げている…天井板の木目はこの時間にも禍々しい顔で僕に微笑みかけている、まるで「お前に希望など不必要だ」と言わんばかりに…
左腕が痺れて痛みも増幅しているようだ!僕は左腕の神経に全集中する『見るんじゃない感じるんだ!』いつか観た映画の台詞が頭をよぎる…第六感をも超越しセブンセンシズさえフル稼働させても…漫画やアニメの主人公ではない僕が感じられるはずもない…ので…みた!そしてまたすぐ閉じた!
『な…ん…だと!』僕は自分の目が信じられなかった、いやそんな光景を映し出した自分の目を呪った…
之は何かの間違い…いやいや現実逃避は辞めよう…僕の伸ばしきった左腕を枕に彼女はスヤスヤと寝息を立てている…幸いにも彼女はまだ就寝中のようだ!早くベットから降り…痺れる左腕をそっと抜きとる…そっと…
「…ん…ンン…」不味い起こしてしまったか!?彼女はパチッと瞼を開くと黙ったまま僕の目を見つめる…僕はイヤな汗が全身から流れ出るのを感じていた。
「…トキオ起きてたんだ…おはよ…」彼女は僕の左肩辺りから上目遣いに僕を見つめている…顔が近い…彼女の息遣いを感じる程に…
「なに?おはようのキスする?」
「な!◯△◎%☓▲!!」慌てた僕はベットから転げ落ち仰向けのまま四つ足で後退りする!
「ははは!冗談冗談…」彼女はウゥーンと大きく腕を上げ身体を伸ばすと此方を向いて腰掛ける様にベットにすわる、ダラリと伸びたその脚は白く長くキレイだなと見惚れて…『き…黄色ですね…』僕は咄嗟に両手で顔を覆って見てませんアピールをした!(いや見ましたスイマセン)
「…あの先輩…昨日は…」
「…なに?覚えてないの?」先輩は薄目でこちらをジッと観ている…僕はすまなさそうに正座をして俯ているしかできなかった。
「…酷い…無かった事にしたいのね…」先輩は顔を両手で覆って俯く。
〜〜〜〜〜
昨晩『鶏軍曹』で大虎となった先輩を「そう言えばお前ら家が同じ方向だからトキオお前部屋まで送ってやれ」と店長に言われて渋々先輩を送る事になった、先輩の部屋に着くと其処は僕のアパートでもあり僕の部屋の上の階が先輩の部屋だと発覚した。
引越してから何度かご挨拶だけでもと訪問してはいたのだが一度もお会いできた事はなかったのだ、昼間は大学で夜は銀座でバイトとなれば留守が多かったのも頷けた、お世辞にも良い物件とは言えないこんなボロアパートに先輩みたいな人が住んでいたとは驚きだった。
「よしっ!部屋飲みするぞ!」ドラマや映画の外で千鳥足の酔っ払いを見るのも初めてだったが日付も変わろうとする時刻にその酔っ払いはビール缶の入ったコンビニ袋を振りまわしケラケラとバカ笑いしながら鍵のかかった僕の部屋のドアノブをガチャガチャと回している…
部屋飲みが始まると僕の部屋にマルサの女や任三郎が突然現れて部屋の隅々まで家宅捜索が行われた、見つけ出された大人の証拠品を前に尋問される僕は…その後の反省会の途中からの記憶は曖昧…いや無い…
〜〜〜〜〜
これはあれだ…之までの全知識(主にネット)を動員し今の状況や先輩の様子を観ればいかな経験の無い僕でも予想はつく…(いや待て!…これってパパ案件じゃないのか…)パパの顔が脳裏に浮かぶ指詰め?す巻き?…(いやいや!全く記憶にも無いのに◯☓▲%!)僕は人生最高最大級に狼狽える…
「…わたし…わたし…」悲しそうに呟く先輩…此処は男としてケジメをつけなきゃ!
「先輩!僕ちゃんと責任をto…」
「…トキオ…ㇰ…ㇰ…クククッ!嘘嘘っ!冗談だってば!」口をポカンと開けて唖然とする僕に先輩は爆笑しながら説明してくれた。
昨夜の尋問の後2人で新歓の反省会が行われた、店長も柴田先輩も僕に対して気を利かさない事も問題ありだが先輩は僕に対しても断わる勇気が必要だと先輩は諭してくれてたそうだ、それ以外にも僕がサークル内やバイト先で抱えている問題を相談していた矢先に僕が間違えてお酒の入ったグラスをイッキに呑み干し眠りについたと説明してくれた…
先輩は万が一を考えて眠る僕の様子を見ているうちに寝落ちしてしまったのだと言う…
「だから何も無かったんだ!からかってゴメンね!」先輩はケラケラと笑いながら謝っている。
「だからってそんな格好で!もし僕が変な気でも起こしたらどうするんですか!」揶揄われていた事に少しムッとして僕は言った。
「いざとなったら…絞め落とす?アタシ男を落とすの慣れてっから!アハハハッ」
「は…ははははぁ〜…落とすの意味ちがいませんか?…」僕は肩を落とし力無く愛想笑いをした。
ホントに無邪気と言うかなんと言うか…先輩にはこれからも益々振り回されそうで心配だけど『少し悪くはないかも』と思う僕もいた。
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