第6話 新歓ってなんですか?
4月某日午後4時
僕はバイト先である『鶏軍曹』に出勤していた、今日は午後6時迄の短時間シフトである。
仕事の内容は主に二階座敷での宴会準備だった、二階座敷のキャパとしては『〜30名様迄可』としているが本日お越しの団体様は少し定員オーバーの予定…なので座布団の配置は若干詰めぎみに並べる算段である。
「トキオ!食器いけたか?!」
「はい!もぉ座布団までいけました!」声を掛けてきたのは同じく短時間シフトで入っている柴田先輩である、先輩は学部とサークルの先輩であると同時に『鶏軍曹』でも先輩になるのだ。
午後5時を過ぎ僕は2階座敷用の飲料に不足が無いかをチェックする、鶏軍曹のバイトが決まってから毎日の様にシフトに入れて貰っているお陰で随分慣れてきていると自負する、初めの頃は何をするにも先ずは質問から入らねばならなかったが今では聞かれる側になりつつあるのだ。
「45分になったら食材上げな!それまで休憩して良いぞ!」店長がカットした野菜をザルに並べながら叫んだ。
「どうだトキオ仕事慣れてきたか?」裏口から出た路地裏で柴田先輩が先輩風を吹かせながらタバコに火をつけた。
「まだまだ
因みにここ最近はシフトも多々被るのと店長や常連さんの呼び方も相まって僕と柴田先輩はトキオと宗さんと呼び合う様になっていた。
「最近は接客もスムーズつかスマートに熟せる様になってひと安心だな!最初の頃は出来の悪いロボットみたいでどうなる事かと心配したけどよ!」こうやって軽口を叩いてくれるのもお互いに良い関係が築けているのだと喜ばしかった。
休憩も終わり鍋用の食材と大皿料理を運ぶ頃には店舗前に団体客が集まり始めていた。
「お邪魔します!そろそろ入っても良いですか?」時間前とは言え気の早い者は痺れを切らせて顔を覗かせた。
「おう!丁度良かった…入って良いから一皿ずつ持って上がってくれ!」宗さんが客に配膳を押し付ける、今日は許されるであろう…なにせ今日は我らがサークルの新入生歓迎会なのだから!
サークルの正式名称は『N大学・ボランティアサークル・オールラウンダー』と言います。
普段はサークル独自で大学周辺の施設訪問や行事遂行補助、地域美化活動等をメインに活動してますが年に数回ほど大規模な他団体からの援軍要請により他県へ赴く事もあります。
「詳しい話は近くに座る先輩諸氏に質問してください!」歓迎会が始まり上座ではサークル代表の柴田先輩が必死になって活動内容を説明している…この機に未入会者を正式入会者として一人でも多く獲得したいのだろう、しかし僕はと言うと本来ならば歓迎される側で今頃は美味しい料理に舌鼓を打ちながら歓談していた筈なのに…平日なのに1階が満席になる程忙しくなり、店長から「時給出すから2階の世話だけでも頼む!」と言われて今に至る…まぁ遊び半分で時給を貰えるのは有り難いのだが、これを機にサークル内でも御世話(小間使い)係が定着しそうで心配なんですけど…
「トキオおかわり!」特にこの人(本庄先輩)はお酒が入ると手が付けられない大虎だ…それに先輩の周りには何も知らない
方や部室にすらろくに顔を出さない不良幽霊男性先輩達は可愛い後輩女性を見つけては連絡先交換に余念が無い…しかしこんな所でも人集りをつくるとはさすが天使・西村!!
まぁサークル歓迎会のリアルな目的なんてこんなものなのだろう…ネットにも書いてあったし…
楽しそうな新入生歓迎会は閉会となりすし詰め状態だった座敷部屋にはもう誰も居ない…
「二次会いくぞ!大林(2回生)参加者連れて先に行っといてくれ!」柴田先輩の呼び掛けでカラオケに行くらしい声が二階で片付けをしている僕の耳にも入ってきた…あれっ歓迎会なのに僕は一体何をしているのだろう?歓迎される側なのに働かされあまつさえ後片付けまで…僕だって人間なんだやるせない気持ちにもなるし心の中に黒い靄だってかかる…やっぱりまた…そんな気持ちを抱えながらテーブルの上の皿を1枚2枚と重ねる…
「…あーっ!やっハりまラ居るぅ!…店ひょうひろくない!トひオらって歓けーされふかわなんらよ!!」
座敷部屋の襖が『バンッ』と大きな音をたてて開くと下に居る店長に向かって大虎・本庄先輩が怒鳴っていた。
「いやースマン!トキオそこは放っておいてもう行って良いんだぞ!」焼き物から目が離せない店長が大きな声で叫び返していた。
「トひオ!もぉいいろ!かへろー(トキオ!もおいいから帰ろ)!」この人はこの人でヤバイ…
「あれーれんわつなはらないやー!(あれ?電話つながらないや)」
「先輩行ってください…僕疲れちゃったんで、片付けたら今日は帰りますから…今更合流しても…」二次会に行った誰かに電話したみたいだが地下に潜ったのか電話も通じない、僕は僕で一度萎えた心は二次会へと足を向かわせないであろう事を知っていた…
「らに?トひオ〜すれへんのは(なに?トキオ!拗ねてんのか)?」
「しようらないら〜…じや〜ふたひれのも〜(しょうがないな…じゃあ二人で呑もう)」目が点になってしまったよ!励ますでもなく勇気づけるでも無く!この虎はこんな状態からまだ呑むと言うのか!?当然僕は未成年なので呑みませんけどね!!
その夜はやむを得ずですよ!やむを得ず!本庄先輩に鶏軍曹で閉店まで付き合わされました…
まぁひとり寂しく部屋で落ち込んでいるよりは幾分かは気が紛れましたけどね!
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