第5話 鬼のち天使ですか?

 昨日は良い1日だったと思う…一部を除いてはね、バイトとサークルへの参加が一度に決まった恐らく祝福されるべき1日だったと思う。

 中高と半引籠りだった僕にバイトの経験があるバズもなく、してや頼れる先輩なんて出来る筈もなかった。

 そんな僕にも頼りになる先輩が一度に二人も出来たなんて僕にとっては奇跡と言っても過言では無い。

 本庄先輩は面接が終わった後も『今日はお祝いだから呑むぞ!』と鶏軍曹でご馳走してくれました、営業時間になると来店した常連さん達も一緒に祝ってくれて、更には心配で用事を済ませて駆けつけてくれた柴田先輩もいっしょになって祝ってくれました。


〜〜〜〜〜


 午前の講義が終わり中庭で今朝ラップで握ったおにぎりを食べる、生活が安定する迄は節約生活を頑張らねば!

 食べ終わると部室に足を向けた、午前中に柴田先輩からメッセージが着てたからだ。

 バイト先も決まったのだから約束通り仮入会の(仮)を取り消さなければならない、柴田先輩は「時間がある時で!」とは言ってくれてはいるがその気持ちに甘えていい加減な奴だと思われる訳にはいかないと僕は部室へと向かった。

 旧校舎の部室へと到着すると入口のドアが開かれており女性が部屋の奥にいる柴田先輩らしき声の主と会話中の様子だ、僕はその会話が途切れるのを待ってはいたのだが途切れる様子もないので痺れを切らして女性の肩に手をやる、すると彼女は相当ビックリしたのか『ビクッ』と少し跳ねて此方を振り向いた。

 僕も彼女もお互いに驚き暫く見つめ合いながら沈黙する、僕は彼女が昨日の(勝手に人の事を振る)失礼な女性だと気付くがそれより先に彼女の口は僕に対して非難の声を上げた…

「…アナタ昨日の!しつこい人ですね!」彼女は酷い形相で僕の事を睨み付けて怒鳴った…怒鳴らないで欲しい…自分でも理解しているんだ僕は他人から激しい感情をぶつけられると委縮して声が出せなくなり呼吸が乱れる…あの忌まわしい時代ときから…何度も味わう何度も聴こえる…心の中に流れるおと


二人あいつらがいないと何も出来ないくせに…)

(それってあれでしょ!虎の威を借るなんとやら…)

(オマケの分際でウザいんだよ…)


僕は『(呼吸をユックリと)ふうっ(呼吸をユックリと)ふうっ…』口を掌で覆って…息が整うまで何度も繰り返す。

「アナタ!聞いてますか!」女性は睨みを利かせながら僕に詰め寄る…まだ苦しい…

「はいそこ迄にしな!」突然後ろから別の女性の声がした、聴き覚えはある…きっと昨夜の深酒で喉が焼けてかすれた声だ…

「でも昨日からこの人がしつこく!」

「アンタは先ず人の話を聴きなさい!」彼女にそう言いつつ僕の肩を抱き寄せた本庄先輩は昨日の人集りからの僕が振られた件と終始後ろから観ていた入口を塞がれて困っていた僕の様子の件が彼女の酷い勘違いだと落ち着いた口調で弁護してくれた。

「トキオ君大丈夫?息が苦しそうだけど…」

「だ…大丈夫です…少しビックリしたのかな…ハハハ…」少し顔色の悪い僕を気遣って本庄先輩は部室の椅子に腰掛けるように優しく誘導してくれる。

「あのごめんなさい!…勘違いとは言えごめんなさい!!」椅子に腰掛ける僕の前まで来た彼女は大きな声で謝ってくれた、凄く大きな声で耳がツン!って痛かったけど心の鎮痛には効果的面だった。

「僕も勘違いさせてしまってゴメンなさい…」オドオドしてしまう自分が嫌いだ、謝る必要は無いと分かっていても謝る癖が身に沁みついている自分も嫌いだ…

「はいはい!疑いも晴れたんだから謝り合うのは終わり!」

「でも何かお詫びさせてください!じゃないと…ごめんなさい!ごめんなさい!」彼女が凄く引け目に感じてくれているのが判る…

「…ならさっ!アナタもサークル員みたいだしトキオ君と友達になってあげなよ!このコ良い子なんだけどちょっと人見知りと言うか…人に臆病というかだしさっ!」えっと先輩…複雑な気持にさせる説明なんですけど…それに彼女も心中複雑なのでは?と俯く僕は彼女の表情をチラ見する…

「…経済学部の1回で…西村紗絵さえです…」僕の視線は彼女の顔へと届く前に差し出された右手を見つけた…

「良かったなトキオ君!なかなか無いよぉ2日連続で振られた娘とお友達になれちゃうなんて!イシシシ…」

 

 僕と西村さんはお互い照れくさそうに握手を交わした、一緒になって喜んでくれる本庄先輩は部屋の奥からキョトンとした顔で此方を見渡す柴田先輩に「今日のむねはいつに増して馬鹿顔だな!」と柴田先輩を巻き込み更に大袈裟に笑ってくれていた。

 上京してひと月経つが今日初めて同期の女友達が出来た、話してみたら凄く気さくで人に対して優しい気持ちを持つ女の子だった、だけど彼女も高校時代のトラウマから人に対して臆病で人見知りなのだとも話してくれた、僕としては始まりは最悪だったけど彼女とは上手くやっていこうと決意した!

 だって勿体ないでしょ!僕なんかがこんなに愛らしい娘とお知り合いになれたのだから。

 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る