逃避者(ノガレモノ)たちの絶望的楽園
砂漠のタヌキ
第1話
あまたある並行世界の一つ、セイレーンバース。
この世界の人間は、4つの「役割」に従って生きている。
まず、「
全ての男性は、生まれながらに「
「
「
「
一人の「
しかし、「
戦闘能力の高さは「
そして、訓練すればだれでも使えて一定の威力が保証されている銃器ではなく、剣や槍、飛び道具ならば弓矢などの、使い手の技量と腕力が威力を決する武器を使うものの方がより尊いとする風潮があり、「
次に、「お
「
全ての男性が生まれながらに「
「
そして「
「
何もできないことについては、ほぼすべてのお姫様が標準的に達成している。
生活の糧を稼ぐのも、日々の暮らしの雑用も、脅威から身を守るのも、そして社会を統治し運営するのも……
「お姫様」は何もできない存在だということを盾に取って、すべて自分を受け入れた「
せいぜいすることといえば、「
そのせいもあって、心が清らかであるお姫様はほとんどいない。
自分にかしずいてなんでもやってくれる独り身の「
「
では、恋心を伝えても「
その末路が「
「
ある「失恋姫」は鋭い羽を弾丸のようにばらまき、別の「失恋姫」は刃の翼で飛びかかりざまギロチンのように首を斬る。
これらの能力を使って、「
攻撃に際しては執拗に「
「
なぜ態度が分かれるかの理由は分かっていないし、調べようともされていない。
「
男性が一方的に重荷を負い、女性も世界の敵の化け物になるか、化け物に殺されるのに怯えるか、それとも孤独に一生を終わるかしかない。
恋愛が人生のすべてを決定し、そして恋愛勝者となっても幸せに生きられない。
そんな世界を捨てようとする者が出るのも、必然であった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「敵編隊東海上より接近!種別「シロ」、数3、速度60!どうぞ!」
『東第一、第三砲台に連絡!どうぞ!』
「了解!……連絡した、どうぞ!」
海を臨む見張り台に立っていた青年が、緊迫した面持ちで無線でやり取りをする。
しばらくするとバスッ、バスッと射撃音が聞こえ、海上から飛来していた「
「おう、ご苦労さん。落としたみたいだな」
後ろから階段を上ってきた壮年の兵士に、青年はかぶっていたヘルメットを取りながら
「お疲れ様です。……最近多くないすか、襲撃。全部「シロ」だけど今日は3匹も来ましたよ。先週だけで5匹も来たのに……」
と返答した。
「本土で大量発生があったとか、「ネズミ」以上の特異個体が出たとは聞いていないんだがなあ」
壮年の男性は返した。
「シロ」や「ネズミ」というのは、「
なりたての「
最終的には「クロ」……カラスの羽よりなお黒い、闇夜を思わせる漆黒となるのだ。
今まで確認された「クロ」は10匹に満たず、そして1匹たりとも討伐された記録がない。
まさに「人類の天敵」となるのだ。
「まあ、俺たちが考えてもしゃーねーよ。見張り変わるからメシ行ってこい」
「あざす!お気をつけて!」
青年は手を振ると、階段を下りて行った。
ここは太平洋に浮かぶ離れ島。
同性を愛していたり性自認が女性だったり性嫌悪の感情から「お姫様」を迎えなかった者、戦闘能力が低く「役なし」から選ばれないばかりか「王子様」からもさげすまれた者、そして世界の残酷さそのものに嫌気がさし、新しい世代の再生産に背を向けた者……
理由は様々だが、男性だけが集まって作り上げた絶望の楽園。
この島に名前はない。島外からの干渉も基本的にない。
だが住人の男たちはこう呼ぶ。
「世界で一番楽しい墓場」と……
逃避者(ノガレモノ)たちの絶望的楽園 砂漠のタヌキ @nanotanuki
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