彼のまねをして、一人で坂道のところに行ってみる。夕方の終わりかけている、今、それでも何人も上へ向かっている人が、生きていることを気にも止めずに去っていく。


この場所は寂しかった。見下ろせばそこには瓦屋根があり、向こうには月とか、いくつかの星も優しく在ったけど、それに意味はなかった。

民家の明かりが見えることは苦しかった。


薄闇のなかに、彼を探している。


・・・


人生の全てはもう忘れた。そしてここに今日が残った。


・・・


戻ると、彼は旅館の休憩所のところに居た。彼は私に笑い掛けた。

「今度ついていくね。あなたに」

彼は黙って頷く。

ミツギ「何か聴けた?」

何か話をしたような気もするけれど、不思議に思い出せない。

「分からない。話したかも」

彼はなにかちょっと納得したような感じだった。

ミツギ「無理に思い出さなくていいよ。聴き流そう」

夜がぐっと落ちていて、部屋の明かりがほのかだった。

「ねぇ、他にも、ここにずっと泊まる人っている?」

彼は宙を見つめて少し考える。

ミツギ「うん。でも、そういう人は元の生活に引き返して行くけどね」

「坂を下りていくんだ」

ミツギ「そうだね」

坂を下りていく人に、彼はあんまり興味も無いようだった。坂を昇る人に寄り添って、彼は暮らしていた。



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