第30話 『鏡の裂け目』

その公園のトイレの鏡は奇妙な形で割れていた。

友人と駄弁りながら、部活から帰る途中そのトイレに寄った時の話だ。


公園のトイレというのは汚いことが多いのだが、ここはわりかし綺麗なのである。

だからよく利用していたのだが、手洗い場所の鏡が奇妙に割れているところを見てギョッとした。

誰かが割ったのか・・・?


奇妙なひび割れ。

それは真っ直ぐな線ではなく微妙に歪曲が連なっているような。

まじまじと見て気付いた。


爪だ。

爪が出ている。

気付いた時にから、少しずつ爪がせり出て、続く指が裂け目を広げた。


爪は、長い黒々と輝く爪だった。鏡の裂け目をこじ開けている。

もう身がすくんでしまって、もう眺めているしかできなかった。


そして最後までこじ開けきったとき、やっとわかった。

これは元々最初から鏡じゃなかったんだ、と。

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