第5話『遅れて来る先輩の引退』

A先輩は遅刻魔だ。

サークルの会議も飲み会も、時間通りにやって来たことは一度もない。

部員の皆も、もうそういうものだと諦めて、特に何も言ったりすることはなかった。


近々文化祭があり、サークルで出し物をするために部員たちで準備をしていた。

A先輩は案の定、その準備の集まりにも遅刻をしてばかりだった。

最初は笑っていた部員たちも、文化祭本番が近くなると注意するようになった。


ある日一人の部員が、とうとう先輩に遅刻する理由を問いただした。

すると先輩は、何か後ろめたいような、説明に窮しているような表情で数分迷った後、ついに口を開いた。


「あの音がうるさいんだ」


「ずっと耳元でペタペタペタペタ…」


「俺が床で寝ててその周りを裸足で歩いてるみたいにさぁ!!」


そう叫んだ先輩がずっと足踏みをしていることを、指摘できる人はもういなかった。

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