ぼっちの僕に甘えん坊が接近中

 教室の窓から薫風がそよぎ、彼女の髪とカーテンが静かに揺れる。成瀬東は目の前にいる一人の女の子から目を離せない。


 『友達になろう』と、控えめながらもまっすぐな瞳で言った。如月さんの言葉はさらに柔らかく響き、東の心にそっと染み込んでいく。


 如月さんの言葉は僕にとってとても嬉しいことである。これは、彼女が完璧な美少女などと呼ばれているからでは全くない。自分から話しかけることができない僕にとって、彼女の言葉は救いの手であった。


 彼女の嘘偽りのない澄んだ瞳が僕を見つめる。驚きと疑問が交錯する中、僕は冷静を保とうと努めながら答えた。問いを問いでで返すのは失礼だと分かっていながらも、どうしても尋ねたかった。


 「……皆から憧れや信頼をもたれていて、友達も沢山いると思うのに、どうして僕なんかに?」


 如月さんは一瞬、考え込むように目を伏せた。その後、柔らかな微笑みを浮かべて、静かに答え始めた。


 「自分を卑下しすぎるのはあまり望ましくありません。私の意思で友達になりたいと思い、今日、やっと伝えることができました。そんな私のお願いを聞いていただけませんか?少なくとも、私の知っている東くんはとても優しい人ですよ。」


 「あれ?僕って如月さんと会話するの入学式いらいですよね?」


 如月さんは笑顔で『そうですね』と一言。


 彼女から何故、《優しい人》という認識してもらえているかは知らないが良く思えてもらってるならよかった。


 「それで東くんは友達になってくださるのですか?」


 友達を作ることに苦戦していた僕にとって、こんなチャンスが再び訪れることはないだろう。だからこそ、断る理由なんて最初からなかった。


 初めての友達が異性だなんて……そんなこと、これまでの僕には全く想像できなかった。


 「はい。僕からも、如月さんみたいな綺麗な人と友達になれて嬉しく思います。これから宜しくお願いします」


 丁寧すぎて少し気持ち悪さを自分に感じた。


 答えを返すのと同時に僕は如月さんの顔を見る。彼女の頬が、少し赤くなっているように感じた。元々肌が綺麗な彼女だからこそ、その変化がすぐにわかる。もしかして、熱でもあるのか?!


 僕はとっさに椅子から立ち上がり少し近寄る。


 「東くん、どうしたの急に?!」


 驚いた様子の如月さんの顔がまた赤くなっていく。


 「如月さん、大丈夫?顔が赤くなってきているけど。どうしよう……朝だから保健室もまだ開いてないだろうし」


 東が立ち上がったのと同時に、互いの顔の距離が一気に縮まる。


 そのとき雫は、東に言われて初めて自分が喜びを抑えきれていないことに気づく。何故か彼は熱があると勘違いしていた。


 東は心配しているからこそ焦りを見せているが、それが間違いだとは気づかず、どんどん雫に迫ってくる。


 「あ、あの……大丈夫だよ。私、ただ……その……」


 雫が『大丈夫』と返しても、東の焦りは収まらず、自分の手を彼女の額に持っていき、優しく触れた。


 「いや、ほら!額が熱そうだし!触っても——」


 「そ、それは……違うんです!あの……ただ嬉しくて、だから……」


 「……え?嬉しくて……?」


 僕の思考が同時に数秒間の間、停止した。如月さんが、そんなに喜んでくれてるとは思いもしなかったから。


 僕は思考が戻った瞬間、少しづつ先ほどの自分の行動を、鮮明に思い出していく。一人で勘違いして焦りまくり、その上、自分の手を如月さんの額に当てたことまでを……恥ずかしすぎるし、如月さんには申し訳ないことをしてしまった。


 僕に被害にあった彼女は目の前で体を少し震わせている。


 こんなにも早く、高校生活初めて出来た友達を失うとは、やはり僕は友達という存在を作ってはいけないのだろうか。


 一人で悲しんでいる僕に先程まで体を震わせていた如月さんが大きく深呼吸をしたのと同時にいつもの状態に戻り喋りだした。


 「東くん。私は、決めました」


 「な、何をですか?」


 何かを決意したらしい如月さんが、僕に宣言してくる。


 「私は、今日から甘えることにします!!」

































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