第3話 愛

1.”緑龍”を倒した、赤龍こと、由比は、退院をした、朗と共に喫茶店を営んでいた。しばらく、体調不良で休んでいたが、由比のことを鑑みた片桐は、オーナーとして、店に携わることになった。昔、殺し屋をしていた片桐は、幼いころの由比に殺しの技術、特に剣術を教え込んだ。そして、父親と同じ刺青を掘り、「赤龍の女」として、生きていく道を選んだのであった。

 「龍」とは、元は中国で、神の使いとして、また、土地の守り神として、現在の蛇に至るまで守り続けたという逸話がある。(諸説あり)「赤龍」とは、火の神として、古代中国では守り神として、祀っていたということもあり、また、太陽から生まれたという言い伝えもある。その姿勢を代々受け継ぎ、現在、日本の国本由比が受け継いでいた。

 「龍崎一家殺害事件」赤龍の男こと、朝比奈宗志が、黒澤会の荒巻源一郎ともめたことにより、暗殺組織・「龍崎一家」を全滅に追い込んだ事件である。荒巻はあろうことか、女・子供から先に狙い、そして、母親の機転により、唯一生き残った、由比は、宗志の元同僚であった片桐に拾われ、養子縁組を組んだ。そして、片桐由比を名乗り生活し、裏では、荒巻を殺すための鍛錬を積んでいた。そして、念願叶った荒巻の殺害。思い残すことなく死のうとしたその時、それを止めたのは、国本朗であった。

2.荒巻忍は、由比の元へ向かおうとしていた。すると、向かいから、陽炎のような妖気を放った黒ずくめの男が、忍に向かって近づいていた。ぐにゃあ、と空間がゆがんだ。

「一目見ただけで分かった。お前が”黒龍”だな。」

「いかにも。」

「俺を止めないのか?」

「なぜだ。」

「赤龍の元へ向かうことは分かっているはずだ。」

「安心しな。どちらか、立っていた方を俺が屠るまでだ。」そう言って、黒龍はその場を去った。

3.喫茶店で働いていた、由比は、客から手紙を預かっていた。その内容は「例の倉庫で待つ。お前ひとりで来い。荒巻忍」と言うことだった。片桐と朗は、必死に止めたが、すでに居場所はバレているため、逃げても無駄だということは分かっていた。由比はドレスに着替え、日本刀を持ち、例の倉庫へと向かった。2年前、荒巻源一郎と死闘を繰り広げた場所であった。

「来ることは分かっていたぞ。赤龍の女。うちの織田が世話になった。」

「うちの家族にだけは絶対に手出しをさせない。」

「では、始めるか。」忍は指をぽきぽき鳴らした。そして、由比はいきなり、もろ手突きに入った。由比の得意技の一つであった。屈強な男たちを、これで幾度か沈めた。だが、「噓でしょ...」刀が、皮膚を貫通しなかった。

「思う存分やりな。俺は動かねえ」忍の口調が変わる。由比は袈裟斬り、真っ向斬り、一文字斬りを見事にしかも、いつもより、威力は強かった。さらにダメ押しの左一文字斬りを見舞った。

「ふふふ。これが、親父を討った剣術か。」無傷。しいて言うなら、切ったような跡は残っているが出血は皆無だった。由比は攻撃対象を変えた。片手突きで肩を狙い、その次に肘、手首など、体の末端部分にかけて攻撃したが、

「指、切っちまったか。」切り傷は残り出血はあるものの、骨までは切れていなかったそうだ。

「来いよ。今度は動く。」そして、みるみるうちに、忍の体はデカくなった。忍の身長215㎝体重180㎏決して、デブではなく、ほとんどが筋肉であった。体脂肪率は12%これは、プロレスラーの中では低い方であった。そして、分厚すぎる皮膚の鎧。これが、忍の武器であった。得意技は、ビンタ、そして、サソリ固めであった。ビンタに至っては、師匠アントニオ伊吹のお墨付きであった。175㎝の由比とは40㎝の差がある。

 忍は、由比に渾身のビンタを放った。巨大な手から繰り出される、ビンタ。顔面の三分の二ほどを覆うこのビンタ。回避は不可能であった。顔の数センチ前に刀を持っていき、忍の手を抑えるが、押して、引かなければ、斬れることはない。そして、この押し合いは、忍の方に軍配が上がった。忍は刀ごと、由比にビンタを放つ!!由比は数メートルとび、床に倒れた。

 由比はすぐさま、起き上がり、ひたすらに刀を振った。忍は、刀を受け続け、そして、首を突かれようとした刹那、由比の顔面にパンチを繰り出した。由比は後ろに倒れるしかなかった。

「チャンスだあ」倒れている由比のドレスを、忍は無理やり引き裂いた。そこには、なめらに透き通る白い肌があった。忍はズボンを下ろし、屹立させた一物を由比のパンツの下の穴に入れようとしたその時、激痛が、走る。

「がああああ。金玉が...」この女、意識は失っているはずなのに...忍は、由比の赤いヒールによって、金玉を潰された。永遠に続くように思える、痛み、悶絶、そして、初めての出血であった。そして、意識をようやく取り戻した由比。

「なんで、裸?」何故か破れている、ドレス、そして、痛みに悶える忍。状況を少しの間のあと、理解した。そして、由比はこのチャンスを見逃さなかった。一文字斬り、のあと、ぼと、と言う音がした。これで、忍の生殖能力はゼロになった。そして、、

「うふふふ。よくもやってくれたわね。」忍は女体化し、冷静さを取り戻してしまった。そして、いつの間にか出血は引いていた。

「嘘でしょ....」忍は、由比に渾身の中段蹴りを入れた。さらに、低くなった頭身にチョップを入れた。そこを由比は刀でガードし、直撃は免れたが、脳へのダメージが強すぎて、鼻から出血してしまう。そこをすかさず、忍は顎に張り手をくらわせる。由比、パンツ一丁で前に倒れる。そして忍は、倉庫の、空き箱を数段積み上げその上に乗る。そして、

「やっぱ、プロレスと言えばこれよね。」忍は、由比にニードロップを決めた。

 ニードロップとは、ダウンした相手に対し、片膝を突き出すように折り曲げてジャンプして、相手の体に片膝を落とす。

古典的なプロレス技であり、フィニッシュ・ホールドとしても使用されていたが、近年では繋ぎ技として使用される場合が多い。ニー・スタンプの派生技とされ、後述する応用型も存在する。

 フライング・ニー・ドロップとも呼ばれる。コーナー最上段もしくはセカンドロープからジャンプして相手の体に片膝を打ちつける。軸足(相手の体にぶつけず、着地させる方の足)を前方へと伸ばして足の裏で着地するタイプと、軸足をもう片足(相手にぶつける方の足)と同様に膝を曲げた状態で着地するタイプの2種類がある。そして、忍の場合、体重180kgを誇るため、粉砕骨折は免れなかった。由比、痛みにより、意識を取り戻す、だが、片膝を壊されたため、立てない。そして、忍は、由比の背後に回り体を持ち上げバックドロップを決める。

 バックドロップとは、相手の背後から片脇に頭を潜り込ませて相手の腰を両腕で抱え、後方へと反り投げる技である。レスリングでも多用されており、日本名では、岩石落とし。日本プロレスの開祖である力道山を含む日本の強豪レスラー達を次々に沈めた技として強い衝撃をもたらした。やがて、力道山もバックドロップを使用するようになり、晩年は空手チョップに次ぐフィニッシュ技として使用していた。その威力は2tトラックが70キロで突っ込んで衝突してきたときと同じくらいだとされている(忍の場合)

「サソリ固めを使うまでもなかったわ。また、遊びましょ。私には、黒龍が待っているんですもの。大丈夫だわ。家族には手を出さないから。」

4.「知らない天井だ。」由比は大きな病院にいた。気づけば、足をギプスで固定されており、ベットで寝そべっていた。

 「気が付いてよかった。丸二日寝込んでたんだぞ。」朗は、安堵した表情で、由比を見つめていた。そして朗は、この二日間の出来事を由比に聞かせた。

 朗は、夜になっても帰ってこない由比を心配して、例の倉庫に向かった。場所は...忘れるはずもなかった。そこに行き、目の前にいたのは、パンツ一枚で倒れている由比の姿だった。そばには破けたドレス。何が起こったか分からないが、由比を起こしにかかった。

「おい!!由比!!大丈夫か!!聞こえるか!!」意識は全く....そう思った朗は救急車を呼んだ。救急車に運ぶ前、運んだ後に色々質問されたが、院長の一声によって、その声は止んだという。それから、院長は、「このくらいのけがなら、1週間で治りますよ」そういって、俺を慰めた。この病院は、他と比べて、最先端の医療施設が揃っているらしい。そして、何かをほのめかすように

「何人であっても、私は拒みませんから」そういって、退席を促した。

 そして、昨日、集中治療室に片桐が運ばれたのであった。

「え?」あまりのショックの大きさに、由比は言葉を失った。犯人は、荒巻忍ではなく、”黒龍”であったらしい。

5.由比の代わりに、朗の手伝いをしていた片桐は、とある来客に気づいた。

「黒龍....お前....」

「久しぶりだな。じじい。とりあえず、ブラック一つ。」毒を盛って殺すか一瞬考えたが、この男は、あらゆる毒に耐性があったため、無意味であった。

「”緑龍”と”織田”を殺したあの女なら、荒巻忍くらいは行けると思ったんだが、あの小僧。さらに進化していやがった。」

「あんたは、まだやらないのか?」

「どのみち全員殺す。ただ、殺す価値のあるやつしか俺は殺さない。無用な殺生はしない主義だ。」

「あんたにそんな流儀があったとは。」

「流儀なんて立派なもんじゃねえ。ただ、遊び相手は選びたいだけだ。壊れやすいおもちゃなら、遊んでもつまらんからな」そして、声のトーンを変え

「腕は錆びちゃいないだろうな」

「なら、今すぐ試すかい。」2人は喫茶店の地下室に向かった。何もない空間。そこには2本の刀のみが存在していた。

「どんな汚いところで娘を鍛えているかと思ったら、案外綺麗にしてあるんだな。」そして片桐は、いきなり、抜刀した。居合斬りである。

 居合斬り、日本刀を鞘に収めて帯刀した状態より、鞘から刀を抜き放つ動作で相手に一撃を与え、続く太刀捌きでさらに攻撃を加えたのち、血振るい残心、納刀するに至る形・技術を中心に構成された日本の武術である。刀剣を鞘から抜き放ち、さらに納刀に至るまでをも含めた動作が、高度な技術を有する武芸として成立している例は、世界でも類を見ない。このように日本固有の形態を有し、かつ日本の武を象徴する日本刀を扱うことから、居合は「日本の武道・武術の中でも最も日本的なもの」と表現されることもある。

「ふふ。騒がしいことだ。」当てた、感触さえなかった。だが、黒龍は一歩も動いていなかった。位置的に言えば、当たっている。片桐は黒龍の後ろの壁を見た。へこんでいる....まさか...

「もう一度やるか?」からくりが分かった。居合をする刹那、反応はできていたどころか、壁まで引き下がり、そのまま、壁を蹴り元の位置に戻っただけであった。部屋の広さは、約6畳、特に広い部屋という訳ではない。ただ、壁から数メートル、離れている分を引いても、一瞬のうちに壁をけって戻ることは、常人には不可能である。そして、黒龍に正眼の構えを取ると、黒龍は、髪を逆立て、ボクシングの構えを取った。そして、手でのフェイントをかけた後、上段廻し蹴りを見舞った。片桐はそれに対し、パンチに対し、一文字斬りで対応しようとするも、蹴りが来たため、ダウンしてしまう。さらに追い打ちをかけるように、膝蹴りを見まい、床に倒れた。

 黒龍は片桐にとどめを刺そうと、渾身の力を込めた拳を作った。そして、顔面にそれを放つも、刀でガードをした。

「脊髄反射か。」黒龍はそういった。

 脊髄反射とは、脊髄を中枢として、刺激を受けた感覚神経が脊髄にインパルスを送り、運動神経に伝達されて反射を起こすこと。脳を介さない反射で、一般的に刺激を受けてから反射が生じるまでの時間が短く、単純で原始的な反射が多いのが特徴

例として、目の前にボールが飛んできたときに無意識に目をつぶる、熱い鍋を触ったときに、思わず手を引っ込めるなどである。

 18歳のころから殺し屋として、生きてきた片桐。意識せずとも、殺し、殺気に対する対応力が、体の隅々までに染み渡っていた。が、黒龍の作った拳、それは、正拳ではなく、中指一本拳であった。

 一本拳(いっぽんけん)

当たる部分は、人差指を第二関節を曲げ、高く突き出して親指の腹と中指で両側からしっかり挟んで押さえる。

急所など一点を突く場合に用い、威力は高い。) 極真空手の技である。つまり、狙った場所は鉄を砕く、最強の技と化したのである。片桐の刀は、黒龍の拳にかなわず、はかなく折れる。そして、ぼきゃ、と骨の砕ける音がした。人中を中心に衝撃波は伝達していき、顔、砕け散る。

6.黒龍が一人、店を出るという異変に朗は気づき、地下へ降りる。そして、再び、救急車を呼ぶ。顔が別人のごとく変化していた。そして、同じ病院、同じエレベーター、だが、違ったのは、そこにはないはずの階層、地下6階。通常は、院長以外は立ち入ってはいけないとされていたが、今回に限り、朗の入室を許可した。

「ここは、何ですか?」朗は院長に尋ねた。そこは、水槽のようなものに、謎の液体に体全体を浸らせ、人が眠っているように見えたが、院長はこう答えた。

「もちろん、これは人間ではございません。クローンの原形です。」

「クローン?」聞いたことのない単語だった。

 1996(平成8)年7月5日、英スコットランドの研究所で一頭の子羊が生まれた。 名前は「ドリー」。 6歳メスの羊の体細胞を完全にコピーする「クローン」と呼ばれる技術の応用に世界で初めて成功したものである。クローンの技術自体は、2006年当時から既に存在していたが、一般大衆に広く知られるのは、ずいぶん先の事であった。だが、その当時から、人間に対するクローン技術には国際社会で問題視されていた。そのため、人間のクローン研究を行うには、秘密裏に少人数で行う必要があった。

「一部の取り換えは、比較的簡単ですが、これだけの量となると、リスクも高くつきます。」

「どうして、これを俺に....」

「このことをあなたが周囲の人にべらべらしゃべっても、誰もあなたの事なんか真剣に聞かないでしょう。それに、奥様では、荷が重いですから。」

「え?」

「あなたが決めるんです。このクローン技術を使って、片桐さんを救うか、それとも、完全に、自然に回復する方にかけるか。どっちにしろ、この損傷では、長くはもちません。どうしますか?」

「先生。お願いします。お義父さんを救ってください。」

7.朗が知る限りの出来事を聞いた、由比はただ、朗の手をそっと握った。

「そういえば、優は?」

「優は、ちゃんと俺が面倒見てるさ。保育園の送り迎え、俺とやるの喜んでたよ。」

「そう...」慣れないことをやってよっぽど疲れているだろうに、そんな気配は一切見せなかった。

「お金のことは心配するなよ。これでも、昔稼いだ金と、喫茶店の売り上げで何とかなるからさ、それよりも大事なのは今日生きること」

 家族を殺されて12年経った。これまで、ただ、生きてきた。どこで呼吸をしているかも忘れていたが、生きる喜びと言うのを夫のおかげでどれだけ感じることができただろうか。朗には感謝しても、しきれない気持ちでいっぱいだった。

 そして、病室に院長が入ってきた。

「どうですか?膝の具合は。」

「はい。痛くはないです。」

「そうですか。赤龍の女さん。」

「え?」由比は、驚いた。朗も同様だった。やはり、ファッションのタトゥーじゃごまかせなかったか。

「朗さん。あんな安い言い訳で誤魔化せるとでも?安心してください。警察に突き出したり、荒巻忍に突き出したりもしません。まあ、緑龍が私の病院を襲ってくるとは思いませんでしたが。」

「あなたは、一体。」すると、院長は白衣を脱ぎ、中のシャツのボタンを丁寧に外し始めた。すると、背中には、青い龍の刺青が入っていた。

「申し遅れましたが、私の名は龍崎葵。また、”青龍”と呼ばれるものです。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る