第2話 連鎖

1.

 力金剛の訃報は全国のニュースで取り上げられた。新聞、テレビ、ラジオ、著名人のブログに至るまで、老若男女、あいさつ代わりに力金剛の訃報があちこちに飛び交った。

 犯人は未だに見つかっていないらしい。そして、力金剛の黒いつながりも暴かれてしまった。それを見た野村慎太郎は

「黒龍が本格的に動き出した。おそらく、近いうちに君らが狙われる。かといって、対応策はない。」

「私、やりますよ。」

「だめだ。そんなことを言っては。殺気を出せば余計に狙われる可能性が...」

「どっちみち狙われるのであれば。私はこの3人を守るために動きます。私にはそれしかない。そういう運命だったんです。」

「馬鹿を言っちゃいかん!!復讐はもう終わったんだ!!これからは3人で暮らしていけばいい。黒龍のことは私が何とかする。」すると、店の中に人が入ってきた。客ではないらしい。

「いらっしゃいませ。」哲夫が対応していた。

「赤龍の女。いるよな。」

「何のことでしょう」

 ぱんっ

 哲夫の太ももを銃弾が貫いた。

「この裏切り者が。黒川の親分には先代の時から世話になってたんだ。その、荒巻殺したのが、お前だとは。赤龍の女の場所を吐けば、今は見逃してやるぜ。」

「やめてください!!」

 美咲が織田に声をあげた。

「ほうほう。赤龍の女が自ら出てくるとはなあ。」

「絶対に剣を抜くな!!」

 野村が声をあげるも、その覚悟はできていた

「表に出な。新しい親分は、生け捕りとのことなんでな」

 美咲たちは、人のいないところまで歩いた。

 男の名は力武龍雅。

 総合格闘家で、試合より喧嘩が好きだそうだった。現在も現役選手として「億」を稼いでいるが、プロモーターである、企業が赤川組の傘下であったため、織田には逆らえないということもあったが、何より自分はそういった勝負の方が本領を発揮できるのであった。

力武は軽装であったが、美咲は、エプロンのまま連れ出された。そして、美咲は、男を倒す覚悟を改めて決めた。

「死なない程度に殺せ!!」

 力武は美咲にジャブを繰り出した。”稲妻の左ジャブ”とも言われ常人はまず、防げない。が、

「かわしたか。流石、荒巻を追い詰めただけのことはある。」

 力武の身長、177㎝に対し、美咲の身長175㎝リーチに関していえば、力武の方が少し長い。

 そして、力武は、ジャブをすると見せかけ、手を開きエプロンのうしろ腰の部分の結び目を掴んでそのまま投げた。

 が、

 寸前のところで離れ一回転し着地する。

 そして、美咲の上段廻し蹴りを力武は顎にもろに喰らった。そのまま、足を掴み今度は蹴りでカウンターを入れた。

 力武の基本とする動きは、相撲、空手、ブラジリアン柔術である。フェザー級で活躍する力武にとって、自分より20kgも軽い美咲を相手にすることなど造作もないはずであった。だが、力武は知らない。格闘技は煎じ詰めれば、「殺し」も技術となる。つまり、その経験が全くない力武は自ら不利な土俵に立ったことになる。

2.

 そのころ喫茶店では

「大丈夫か!!哲夫君!!」

「はい。元々やくざものでしたから。覚悟してたとはいえ....」

「しかし、美咲がまずい。再び殺しに目覚めてしまったら、後戻りできないぞ。」

「でも、死んだら元も子もありませんよ!!」

「じゃあお前ならどうするんだ!!」

 正直、あれで終わりだと思っていた。

 哲夫は自分の発言を恥じた。

 ありもしない覚悟をあるかのように、できもしないことをできるかのように。

 ”死ぬ気で守る”とは実際に死の淵に立たされないと、その言葉の意味を持たない。 自分は一度死の淵に立った気でいた。

 だがそれは、立った気になっていただけで、実際は立ってすらいなかった。あのとき、荒巻を手にかけようとしたとき、美咲がいなければ、一生荒巻の犬でいたに違いなかったのだ。俺は美咲を救った気でいたが、今度こそは、

 哲夫は足を引きずりながら、美咲の刀をもって、織田と美咲の元へ向かっていった。

「待ってろよ美咲!!必ず助けてやるからな!!」

3.

 美咲は、ダメージを与えることよりも、剣術の応用で、少しずつダメージを受け流すことに専念した。直接切られないよう、刀と刀を合わせるがごとく、力武のパンチやキックに対し、ストレートに応酬しない。それが、美咲にとっての最適解であった。

一方の力武は、だらだらとダメージを与えるのは時間の無駄だと感じた。ましてや、この女などには余計な体力を使わず、短期決戦で終わらせるつもりだった。であれば、待つしかない。一撃必殺の機会を。「しゅっ!!」空気の短く吐く音が、ジャブの速度を....

そのとき、美咲はずば抜けた反射神経で力武の腕を右手でつかみ、そのまま左肘で夜倉の右腕を折った。そして、そのまま、あごに膝蹴りをくらわせ、ダウンさせた。

「どうした力武!!負けたら死刑だぞ!!」

 その時、力武は意識を取り戻したと同時に、怒声が上がった。

「死ね!!軟弱者があ!!」

 哲夫は、鞘から抜いた美咲の刀を織田に向かって投げつけた。だが、織田は簡単に交わした。

「小僧!!何の真似だ!!力武と二人で死ね!!」

 スパンと音が鳴った後、哲夫の前には生首が転がっていた。

「美咲...お前...」

「ごめんなさい。こうするしかなかったの。」

「なるほど。やっと本領発揮ですか」

 力武は再びファイティングポーズをとった。

「やるしかないみたいね。」

 美咲は剣の構えを取った。

 力武は、蹴りと、投げ技に集中した。それを見事な殺陣でさばき始めた。ミドルキックも刀で防いだもののダメージまでは防げなかった。ここでようやく、正中線斬りを行えたが、上手く刀が入らなかった。

「聞いたことがある。空手家は、部位鍛錬によって強くなると、、その強さに裏打ちらせて、筋肉、骨、皮膚に至るまで常人の5倍強くなると。しかし、総合格闘家、得意技が、空手のほかに、相撲とブラジリアン柔術もある。それだけでもすごいのに力武は、他の二つでも部位鍛錬を行っている....つまり、関節や腱、内臓に至るまですべてが固いということか...」

 美咲は、刀を横に構え重心を低くし、足は、横に滑らせた。一見無駄のように見えるこの動き、だが、美咲は一気に決める覚悟をした。

 力武も、格闘技の「構え」を捨てついに、一撃で決める覚悟をした。

 美咲、一歩も動かず、力武仕掛ける、低くなった顔面への前蹴り、そして、瞬間移動からの袈裟斬り。これが多くの男を殺めた、渾身の一撃であった。力武はそのまま前へ倒れるしかなかった。

4.

 そのころ、赤川組では

「そうか。赤龍の女が、織田を殺したのか。あの女、親父に変わって、ぶち犯してやりたかったんだが、そうも言ってられねえみたいだな。力金剛も力武も、組員もダメだったら、俺が行くしかないでしょう。」

  荒巻忍(18)

 荒巻源一郎の3人目の愛人との間に生まれた子供である。

 父親のことは良く尊敬していた。

 自分こそがやくざを継ぐのだと。

 だが、荒巻には、本妻がいた。

 母親のほかに5名の別の母親。そしてその子供たち。16歳の夏。荒巻の訃報を受け、初めて他の女の存在を知る。当然、財産など渡るはずもなく。さらに、遺産相続をめぐる、本妻とその他の愛人との泥沼劇が繰り広げられた。そして、しびれを切らした本妻があることを提案。お互いの息子たちに、話合わせるといったものだった。

 この狂気の策に、双方納得の上で話合わせた。が、当然、話し合いなどと言うものはあくまで建前上のもので実際は、次期組長を決める喧嘩だった。その結果見事、忍は次期組長に就任したのであった。だが、組員などと言うものは一人もなく、枝の組織から自分のところに引き込むしかなかった。

「あんたが、忍君か?」

「忍君やて?」

「まさか、健司くんやなかったんやな。負けてもうたんか。だが、俺は認めてへんで。いくら親父さんの子であってもな」

「じゃあどうする。」

「決まってます。俺と勝負して勝った方が次期組長や。」

「なるほど。」

 そういって、織田はいつも通りチャカを出した。

「悪く思うなよ。もしかして、あっちで死んだ方が幸せだったかもな。」

 すると、後ろから金属バットで頭を殴られた。忍は、一切動かなかった。動けなかったのではなかった。そして、拳銃を三発ぶっ放した。心臓に正確に狙ったが分厚い大胸筋が銃弾を防いだ。

「きっ効いてない。」

「殺すには銃が小さすぎるでしょう。」

 そういって、忍は織田をビンタした。一撃で 織田は失神し、次に金属バットを持った男が再び頭を狙ってきたが、これを、全力で受ける。すると、金属バットを持った男は全身にしびれが渡った。そして、クビにチョップを喰らわせた。

 織田は、まだ倒れていた。忍は織田の背中に乗り、足をクロスさせ”サソリ固め”をきめた。織田の脊椎からみし、みし、と言う音が聞えた。気が付いた織田は激痛のさなかにいた。

「ぎゃあああああ!!もッもうやめてください!!分かりました!!あなたが、次期組長です。」

「じゃあ杯を交わすぞ織田。親子の盃だ。」

「そして、早速命令だ。俺の親父を殺した女をここに連れてこい。勝手に殺すなよ」

 自分が行くと親父の二の舞だからなあ。戦いのプロにやらせればいい線行くと思ったんだが、そうもいかなかったみたいだな。

5.

 最強プロレスラー盛田順平は語る

「覚えてますよ。あいつのことは。うちの門下生は家庭に問題のある子も多かったですから。まあそんなもんがプロレスにであって客を喜ばせれば、これ以上良い社会貢献ってもんはないでしょう。で?あいつの何が聞きたいんだ?弱点?そんなもん俺が知りたいくらいさ。受けも攻めもどっちもうまかったからなあ。プロレスラーは不死身なんかじゃないよ。当たりどころが悪ければ当然死ぬさ。でも、ダメージを最小限に受ける。よけちゃダメなんだな。天才的なんだそれが。でもいくら受けがうまくたって体がもたなければ意味がない。あいつ、後輩に何やらせてたか知ってるか?本気でナイフで殺させようとしてたんだ。いかれてるだろ?死人が出たらおしまいだから止めたんだけど、練習終わった後にこっそりしてたみたいだ。あと、親父がやくざなんだとよ。それで拳銃も手に入るから、ぶっ放させてたんだ。え?騒ぎに?ははっ。ならねえよ。腐ってもうちの門下生だからな。」」

6.

 美咲は、哲夫を守るためとはいえ、再び修羅を道を歩んでしまった。そのことに後悔はないが、優が巻き込まれるということだけが心配であった。菊花が言ったあの言葉を美咲は反芻していた。復讐に終わりはない。再び動き出したのであった。

 ここは大きな病院だった。喫茶店は臨時で閉めてしまった。数日は退院できないらしい。優と一緒にお見舞いに来ていた。

「いやあ、リンゴ美味いよ。」

 哲夫はそんなことを言いながら、ベットに寝そべって、美咲がむいたリンゴを食べた。そんな様子を向かいのビルから眺める一人の男がいた。”緑龍”である。

「見つけたよ。赤龍の女。お楽しみのところ悪いけど、君もうすぐ死ぬからねえ。」  ライフルの照準を美咲の額に合わせ始めた。美咲は一か所にとどまり続けることはしなかった。そして、狙う機会がないまま美咲のみ病室を出た。

「見失った!!いったいどこに....」

「私をお探し?」

「赤龍の女!?お前さっきまで病室にいたはずだろ?」

「そんなことはどうでもいいでしょう。」赤いドレスに身をまとい、日本刀一本で、”緑龍”那須隆一に挑む。

 美咲は、一気に間合いに攻め込んだ。だが、それを最強の目を持つ那須隆一が見逃すはずもなく、上段蹴りを決め込んだ。

 美咲の鼻から一筋の赤い線が流れる。血であった。

「接近戦が苦手だとでも?」そう言って、ポケットから、サバイバルナイフを取り出した。そして、喉元に一気に刺しに来た。

 これを刀でさばいた。そして、逆袈裟斬り、左一文字斬りの連斬りをしてきた。那須はこれを見事に交わした。逆宙返りによって。

 そして、ナイフを地面に置き、デザートイーグルで、3発心臓の位置を正確に狙って撃った。美咲はそれを刀で3弾ともさばいた。

 那須は落ちたナイフを足で広い、それを美咲に向かって投げた。それを見事にかわしたものの、ナイフが頬をかすった。

「なぜ私を狙うの?」

 美咲は那須に聞いた。

「あんたが黒澤組を壊滅させたって聞いてね。だったら気になっちゃうじゃん。大勢の男を殺した”赤龍”がまさか女だったなんて。俺は君に惚れたんだ。近くにいたら追いかけたくなっちゃうよね。殺したくなるよね。俺、昔から憧れてたんだ。屋上に呼び出して、好きな女の子に告白するってやつ。まさか俺が呼び出す前に来てくれるなんて思わなかったけどさ。」

 那須はよだれを垂らし、目は温和な印象を与えていた。まるで街中を歩く美女をナンパする男のように。気がある女を誘うような目つきをしていた。


 話を聞いた美咲は何を思えばいいか分からなかったが、ただ一つ言えることは、こいつを殺さなければ、当座の危機は去らないということである。再び美咲は上段の構えを取る。那須、そのまま、拳銃を構え、2発いるが、一文字斬り、立て続けに、真っ向斬りに入る。それを、ナイフ一本で止めた。そして、那須は目を閉じ、閃光弾のキャップをあけた。美咲の視界は光にのみ包まれた。那須は背後に回り、脳天を打ち抜くことにした。パン、パン、那須は美咲の脳天を打ち抜いた。そのあと、脳みそが飛び出し、美咲は倒れる、、かと思われたが、美咲は刀で銃口の向きをずらしていた。

 強い光を浴びたときに、人間が思わずやってしまう行動、それは、眼をふさぐ。だが、美咲は、眼をふさいだ瞬間、音のみに注力し、それを狙った。プロとプロの駆け引き。目が見えぬまま、一文字斬り、さらに、もろ手突き、逆袈裟斬りを見舞う。

 那須は刀身の刃こぼれで内心焦るが、平静を保ったのもつかの間、もろ手突きをもろに喰らい、逆袈裟斬りは何とかかわすも、深手を負ってしまう。

 那須、思わず距離を取る。そして、それを追う美咲。袈裟斬り、これを那須がかわすも、斬り上げをもろに喰らう。

「つばめ返しか....」

 ナイフで防ごうとしたものの、一刀両断されてしまう。美咲は戦いながらにして、さらなる進化を遂げたのであった。

「”目”が見えない状態で俺に勝つとはなあ。」那須はその場に倒れたのであった。

7.

 黒龍と警官は再び、ビルの屋上で話し合っていた。

「ついに、赤龍の女が、”緑龍”那須隆一を倒したそうだ。それと、赤川会組員・織田が生首を切り離された遺体で見つかった。」

「五体以外の何かに頼みを置く。その性根が技を曇らせる。」

「お前が緑龍相手だったら余裕だと?」

「ああ。2秒で絶命できる。」

「聞いた俺があほだった。こんだけ、俺に調べさせといて、まだ何もしないのか?」

「ああ。他の連中にやられるようなたまであれば、わざわざ俺がやる必要がないからな。この女はまだ、開花していない。つぼみにちょっと穴が開いた程度だ。」

「花開いたら、そこを狩りに行くのか?」

「ふふふ。眠れぬ夜が続くだろうぜ。」

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