第2話 失敗は成功のもと

「また失敗したの?」

「これで何回目?」

「次失敗したらクビだからね」


 そんな言葉をひたすら言われ続けている。私は岡田夏輝。明日で四十歳だ。この文房具の商品開発に勤めて十年、未だに新商品を出していない。アイデアは浮かぶものの、却下される毎日だ。今日も新しいアイデアを考えてきた。その名もシャープ鉛筆だ。見た目はシャーペンだけど、ボタンを押すだけでシャーペンが引っ込み鉛筆の芯が出てくる。


 シャーペンと鉛筆は同じだろ!と思う人も多いと思うが、高校生からしたら最高の文房具だと思う。私も昔、こういうのが欲しかった。マーク式の模試で名前を鉛筆で書こうとすると、必ず字が汚くなり、モチベーションが下がる。でも、シャーペンで書くのは禁止されている。だからこそ使えると思い、企画した。私はいつも通り、上司に見せに行った。


「どうですか?」

「ターゲットが狭すぎるだろ。もっと老若男女を狙わないといけないだろ」

「すいません」

「いつになったら商品になるんだ!もうクビだ」

「二人の子供がいるんです。お願いします」

「残念だが、退職の準備をしてくれ……」


 私は諦めて出ていった。会社を出るとさらに寂しくなってくる。これからどうすれば良いのか。去年、夫が癌で亡くなって、一人で二人の子供を養わないといけない。食費や学費があるのに、全然お金が足りない。


 すると、目の前に謎の男の人が現れた。


「君の願いを叶えてあげるよ」


どこか見覚えがあった。


「じゃあこの商品を販売したいです」

「分かった」


 突然、意識が遠くなって行き、気がつくと上司の前にいた。


「この商品、めちゃくちゃ良いじゃん」

「そうですか?」

「高校生の悩みを解消した素晴らしいアイデアだ。採用にしよう」

「ありがとうございます」


 次の日、店にはシャープ鉛筆が売られていた。私はそれを三本買って帰った。その日の夜、開発グループのみんなで焼肉に行くことになった。明日は娘の学習発表会。早く帰らないといけないな……。先輩の車に乗り、焼肉屋へと向かった。

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