魔法使いの願い事

緑のキツネ

第1話 シンデレラ

「わたし、いつかシンデレラみたいなプリンセスになりたい!」

「みーちゃんなら、絶対になれるよ!」


 お母さんに固く決心した。幼稚園に通っていた頃から、『シンデレラ』が大好きだった私の将来の夢は、シンデレラみたいなプリンセスになることだった。


 小学五年生になっても、夢は変わらない。友達に将来の夢を伝えると、笑われる日々。


「プリンセスなんてなれるわけない」

「現実を見た方が良い」


 一ヶ月後の十月二十日、文化発表会が行われる。そこで、私たちのクラスは、『シンデレラ』の劇をすることになった。

 

「これから役を決めていきたいと思います。

まずは三分間、考える時間をとります」


 学級委員が、教室の前に立ち、黒板に文字を書き始めた。役名が白い文字で書かれていく中に、主人公シンデレラの文字があった。


「美香はやっぱりシンデレラだよね?」


 前の席の由美が聞いてきた。


「うん。小さい頃からの夢だったから、絶対にシンデレラ役やりたい!」


 こんな千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。


「由美は何にするの?」

「私は……なんでも良いや」

「由美はお母さん役とか良いんじゃない?」

「私なんかに出来るかな?」

「由美なら大丈夫だよ!」

「三分経ったので役を決めていきます」


 学級委員の声が教室中に響き渡る。いよいよ、夢のプリンセスに近づけるかもしれない。心臓の音が早くなる。お願いします。誰も手を挙げないで……。


「シンデレラ役が良い人?」


 私はすぐに手を挙げたが誰も私の方を見てなかった。みんなの目線の先には四条明里がいた。明里は成績も優秀で、運動神経も良くみんなの人気者。それに対して私は、成績も悪いし、運動神経も悪い。友達も少ない。多数決の結果、呆気なくシンデレラ役は、明里に決まった。私は悔しくて仕方が無かった。


 結局、私の役は姉A。シンデレラに悪いことをするキャラになってしまった。由美は、お母さん役になっていた。

 

 帰り道、由美は私を励まそうと頑張っていたが、私は元気が出なかった。


「……大丈夫だよ。まだチャンスはあるよ」

「やっぱり私にプリンセスは似合わないのかな……」

「美香なら大丈夫だよ。」

「由美も私のこと、見下してるんだよね?」

「そんなこと、思ってないよ。良い夢だと思うよ」

「嘘だよ……。だって、目が泳いでるもん」

「本当だよ。本当に美香にはプリンセスになってほしいよ」

「今は……ほっといてよ」


 由美を置いて、走り始めた。それから、一週間学校を休んだ。お母さんから学校に行くように強く言われ、一週間ぶりに学校に行ってみると、由美の姿はどこにも無かった。


 由美のお母さんが病気で亡くなったと友達から聞いた時、どうしたら良いか分からなくなった。何もかも上手くいかない。その日の帰りに、一人で考えながら歩いていると、怪しい黒い服を着た男が前の方から近づいてくる。


「初めまして……」

「誰ですか?」

「私は魔法使いだよ。キミの願いを叶えてあげるよ」


 怪しい男、魔法使いと名乗る不審者、早めに離れた方が良いかもしれない。


「魔法、見せてあげるよ」


 その瞬間、歩いている猫が空に浮いた。私たちは目を丸くして見ていた。こんなことが出来るなんて……。


「これで分かっだろ。俺は本物の魔法使いだ。さあ、願い事を言いなさい……」

「じゃあシンデレラになりたい」

「キミなら、シンデレラになれるよ」


 突然、意識が遠くなっていった。気がつくと教室にいた。


「三分経ったので役を決めていきます。シンデレラ役が良い人?」


 この言葉に聞き覚えがあった。私は元気よく手を挙げた。横を見ると明里は手を挙げていなかった。私はシンデレラ役になることが出来た。


「由美は魔法使いとか信じる?」

「魔法使い?そんなの居るはず無いでしょ?」

「もし、魔法使いに会えたら何を願う?」

「うーん……。お母さんに会いたいかな」


 それから、シンデレラの劇の練習は始まり、由美も何故か学校に来るようになった。そして、月日は流れ、学習発表会本番。劇は大成功し、私は、プリンセスになりきることが出来た。


 その日の帰り道、二人で発表会の感想を語り合った。

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