第64話

ユキは大学で心理学を専攻しているという。来年は大学院に進む予定だそうだ。学費を稼ぐため、学業とアルバイトを両立させている。働きながら勉強を続けるという事は、とても大変なことだろう。自分のプライベートな時間だって、そう多くはないはずだ。


それなのに、自分の貴重な時間を削って、ひとりやもめで、本当は寂しがり屋の私のことを気遣ってくれている。


それなのに、私は嬉しいとか、楽しいとか、月並みな言葉しか返せない。

確かに、それは正直な気持ちではあるが、物書きを趣味としている身としては、なにかもどかしい。



君は、君が自分で思っているより、ずっとずっと素敵なんだ。


私には、それが分かっている。最初に君を見た時から分かっている。

だが、それをうまく伝えられない。



言葉を間違えば、ユキに却って負担をかけてしまうし。

彼女には、軽やかに喜んでいて欲しい。

それを、上手く伝える言葉が見つからないのだ。




これは、ユキに感謝すべき幸福な悩みなのだろう。







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