第48話

どんな小さなことでも、やろうと思った時に実行したい。

そうでないと、私のような男は何もできないから。


だから、思った時に行動に移すようにしている。

ユキには、そう話したし、些細なことだが、実行に移した姿も見せている。



さて、酔っている。

なのでユキの話は抑える。






私の趣味は、ラリーみたいな車の運転や、我流の居合とか、そういう独りの趣味が多い・・・同好の士は持たない。


勝ち負けに意識が移ると楽しめないし、人付き合いが面倒だからだ。


武術系は結構好きで、合法のエアピストルなんかも好きだ。


そういえば、パリオリンピックで、非課金おじさんとやらが、一時話題になったようだ。


職場のアルバイトの子たちが、私にそういう話題を振って来たことがあるからだ。

オリンピックに興味のない私は、一瞬何の事かと思ったものだ。


・・・私は、射撃の趣味は話していないはずだ。


でも、確かに、あれにそっくりなことをして遊ぶことがある。

・・・顔は全く似ていないが。



エアピストルは弓に少し似ている。

オイゲン・ヘリゲルという学者が書いた「弓と禅」という本を愛読もしている。



弓の達人曰く、的を狙うなという。

狙うことを忘れろと。



私は達人でもなんでもない、酔ってユキに図々しいメールを送って嫌われる程度の男だ。


ただ、狙うなという言葉の意味は分かるような気がする。



銃には、フロントサイトとリアサイトという、照準を定める場所がある。

そこだけを見て、他はなにも意識せず、引き金を静かに絞り続ける。

絞り切るという意識は捨てる。


それが出来ると、的の中央にあたる。



・・・これは事実で、何度も経験した。


そして、面白いことに、右腕でも左腕でもあたる。

このスコアなら、オリンピックでも下から2番目にはなれる。


次元大介を超えたぜ!

とか、自画自賛した瞬間、当たらなくなる。

これも事実で、幾度となく経験した。



そして、面白いのが、素面ではなく、いい感じの、ほろ酔い状態の時に、それが一番現れやすいということだ。そして、当然泥酔するとまるでダメだ。


極まれに、異様な正確さであたることもあるが、滅多にない。



要するに、正しい動きを妨げるのは自意識だ。

自意識とは欲望が姿を変えたものだ。


正しく動くには、欲望を消し去らなければいけないということか。


私は、昨日欲望に負けて、間違いなくユキに嫌われた。

だが、その方が良かったのかも知れない。


そういうことは、速い方がいいし、私はユキを不幸にしたくない。




・・・おっと、自制自制!!!




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