第19話

ユキと共にいた時間は、本当に仕事の事務的なやりとりだけで、会話の内容も、ごくあっさりしたものだった。そもそも私に若い女性とうまく会話のできるスキルなどない。


それでも、とびきりの美貌であるユキに対し、オッサン丸出しの質問をした。


「どういうタイプが好きなんだ?」


・・・これだ、だからオッサンってのは。


「顔とかは、関係ないかな?」


ユキがあっさり言う。

そうなのだ、美女というのは、案外男性に容姿を求めない事が多い。

要するに、一緒に過ごしやすい人が良いと言う。

とても良い基準だなと、その時私は思った。


そうなると、その時点で私はアウトだ。

多分、私は近くにいると落ち着かない感じがするだろう。

早々に、候補から外れたのを悟る。


ところで、私の場合このとおり、全くモテた経験がない。

だから、美女を前にすると、舞い上がってしまい、かなり落ち着かなくなる。

ところが、ユキがいてもあまり緊張というものを感じなかった。


無論、会話などはぎこちなく、内容も極めてつまらないことしか言えなかったが、そりゃ私だから仕方がないさ・・・などという気分だったので、実はとても楽ではあった。


私から見たユキというのは、とてもフラットな心の持ち主で、過剰な社交辞令はせず、それでいてちゃんと相手の言葉を受け止めていた。正直で、偏見や先入観が少ないのかもしれない。


だからこそ、ユキには誰にも話せなかったことも話せたし、過剰な同情や、ユキの寛容さに取り入って、彼女の心に近づこうとも思わなかった。


ただただ、ちゃんと聴いてくれる。

それだけで十分なのだ。


私の女性との交流経験など、小学生以下だが、そんな私でも、こういう女性は得難いのではないか?そんなことを思った。


アルバイトの契約期間を終えた後、連絡先を尋ねたのは、もう一生縁がないであろうほどの美女とお近づきになりたいという欲よりは、このままユキという存在が、私の残り少ない人生から消えてしまうことが寂しかったからだ。


何を話すということもないだろうに、ほんの少しだけ繋がりが欲しかった。

それは私の欲でしかないことは、分かっている。


ユキにとって、私が特別な存在である必要は無い。

私も、ユキがいなければダメなんだ! などというつもりはない。


いや、正直、ユキがいなければダメなんだ!とは思うが、それはユキがいつも私のそばにいて欲しいという意味では無い。


互いに離れて自由に過ごし、私がときおりユキのことを気にかけることを許してくれれば、それがとても心地よい時間になる。


・・・なんだろうな、上手く言えないや。













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