第17話

ここで、今まで書き散らかした文章を読み返してみる。素面で書いたものもあれば、酔った勢いで書いたものもある。我ながら痛い文章だと、それこそ「痛感」する。


でも、ここにこうやって書き残した文章は、紛れもなく私が本当に思った事実だ。つまり、私の本性とは、いい歳をして痛々しいことを考えている、みっともなく、情けないオッサンだということだ。


しかし、これが自分なのだという現実と、向き合わなければいけない。

そう思って、人目にさえつく、この場で、独白のようなことをしている。

情けないことも、恥ずかしいことも、だから全て私の事実だ。


ユキには、このことを一番最初に伝えていた。

彼女には、取り繕って、本来の自分では無いような、いいカッコを決してしないと決めた。それが私自身の義務だと思ったから。


常識的に考えれば、絶対に引くようなことを、敢えて素直な気持ちで書いた。

ユキが不快なら言ってくれとも伝えてある。


それでも、彼女は、さして気にした風もなく、普通の明るい言葉をくれる。

いや、気を遣って我慢してくれているのかもしれないが。


だから正直、そんなことは最初から諦めていたのに、そうしてくれることに、これは本当に現実なのだろうか?そんな気さえしている。



私はユキに立派な人間だと思われる必要は無い。

心を無防備にして、みっともないところしかない、この自分の姿で素直にユキと向き合いたい。


ただし、彼女を傷つける言葉や、彼女の自由や幸福を無理やり奪うような行動は、死んでもやらない。


そう決めた。



そんな偉そうなことを言っておきながら、昨夜ユキに泣き言のようなメールを送ってしまった。一度放たれた言葉は、取り消すことができない。しかも、それは本心なのだ。


それでも、私の気持ちを一生懸命に汲んでくれるユキの言葉は暖かかった。

やさしく包み込まれるような気持になったのも、本当のことだ。


まぁ、ユキにそんなことを言えば、嫌がられるのが関の山なのだろうが、事実は事実として、ここに書きとめようと思った。



前回の文章を朝に書き、普段通りの出勤をした。

ズボラでテキトー、何を言われても馬耳東風、はたまた機嫌次第では子供みたいにムキになる陽気で情けないオッサン。


それが、私の人物評らしい・・・社会人として、決して褒められたものではない。


ユキへの手紙は、どちらにせよ、自分がロクな男ではないことを、自分自身に痛感させるための行為でもある。


いい歳をして、子供みたいにユキに甘えてしまった、自分への自己嫌悪を抱えながら、職場に着く。それでも、そんな素振りは出なかった。ある意味、心を閉ざしているせいだろう。


当然、無駄口を叩きながら渋々仕事をしていると、職場の同僚の男性が、アルバイトの子と私の話をしていた。どうせ悪口だろう・・・。


すると、アルバイトの子が私を見てニヤニヤする。


「スズキさん」

「蟹江さんって、スズキさんの強さに、ちょっと憧れてるらしいですよ」


  ・・・へ?


午前中から、人をからかうものではない。

だが、蟹江君は、そうだと肯定した。


昨晩、ユキに泣き言を言って甘え、優しく慰めてもらった男のどこが強いのか?

昨日の今日のタイミングで、そんなことを言われて、困惑した。


「あ、照れてる照れてる」

「スズキさんって、結構照れ屋だよね・・・そんなだけど」


そう、他のアルバイトの子まで言う。

・・・そんなだけどは、余計だ。


それは違う。

照れているのではなく、私は強い人間ではないのに、そうしてそんな風に見えるのだ?


ほんとうに不思議だったから、そういう反応をしたのだ。



いや、逆に、その時は、自分の弱さを自覚できていたから、逆にそんな風に見えたのかも知れない。


だったら、強がらず、できるだけ素直でいるべきなのだろう。


自分の中にある、自尊心や虚栄心を削り取りながら生きるべきなのだ。

私の心の大半を占める、そういう部分を削り取られる痛みが、食うための糧に変わると思えばいい。


そんな偉そうな事を思った。

だが、それは容易なことではない。


それでも、もう背伸びすることも、粋がる事も、やめようと思う。

こういう、情けない自分の姿をできるだけ曇りのない鏡に映して、できるだけ目を逸らさないようにしたいな・・・そう、思っては、いる。


どこまでできるかは、分からないが。

































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