第6話

気がつくと、普段ほったらかしているスマートフォンにチラチラ視線が行く。

連絡でもしてみるかな・・・ふと、思うが、さして話すような話題は持っていない。


そもそも、盛り上がったり、話が弾む光景が想像できないからだ。さして親しくもない男から、面白くもない話を、短時間とはいえ聞かされるユキもたまったものではないだろう。


中途半端な気持ちの在り方を、ヤレヤレという思いで眺める自分と、寂しいなら素直に連絡してみろよ・・・と、けしかける自分が、まるで互いにからかっているようでもある。


こういう場合、大人としては我慢して、ユキの貴重なプライベートの時間を削るべきではないという結論が出ている。本来は、そうあるべきなのだ。落ち着かないのは、そういう分別とは別に、仔犬のように寂しさを感じている自分を抑えきれていないことにある。


男が女に対して、抱く感情にはいろいろなものがある。

愛情であったり、恋心であったり、好意であったり、敬意であったり・・・。

性の要素が絡むから、男とのそれよりも、少しだけその関係は複雑になる。


そして複雑さを増すのは、惚れられる側よりも、惚れる側の問題だということもわかる。


惚れられる側に、その気が無ければ、もう既に答えは出ている。

だが、惚れる側は、その事実を受け容れるのが困難であるということが、理由だ。

それに加え、本当の自分の気持ちに気付くまでに、人は時間がかかるということ。


なぜ、人の心を、こんな面倒なものにしたのだろう?

時折、私はそう考える。

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