第4話

先日、妙に象徴的な印象に残る夢を見た。

そして、目が覚めると、とても息が苦しかった。


身体的なものではないことは、何となく分かっていた。

ユキの短期の業務補助の派遣が終わったことが要因だろう。


自分が思ってもみなかった、自分の考えを打ち明けられたことで、たった4日の間に、随分私は精神的に彼女に依存していたのかもしれない。


恥ずかしながら、素直に言えば、まるで、母を見失った迷い子が抱く不安のようでもある気がした・・・冷静に考えると、実に情けない。


年齢から考えれば、守ってやらなければならない立場にあるのは、当然私の方だし、彼女は私とは別の人生を歩む一人の大人の女性なのだから、私がとやかく言うべきではなく、笑いながら黙って見送るのが筋だ。


つまり、私の中の心とやらは、まるで大人ではないということか。


それも、事実なのだから認めねばなるまい。

これは、しょせん私自身の問題でしかない。


印象的な夢の内容の具体は明かさないが、かなり奇妙な夢もあった。

はっきりと夢を覚えていたうえに、見たことのない夢だったから気になった。


あったのは、現在の境遇の変化や破壊、それに伴うリスク、また現在を克服した新しい転機の可能性、自分の中の幼児性の克服とか・・・。


意外と当たっていそうだが、それとて解釈次第の問題でしかない。


ユキとの会話は、業務上のものを除けば、極めて普通の会話でしかなかった。

「運命の人」だの「特別な関係」だのという意識は私には無かった。


だが、その夢はユキとの4日間によって見たのは間違いないだろう。


・・・面白いものだ。


私とて男だから、恋愛とか、片思いとか、そういう感情は若い頃はよく抱いたものだし、歳を取った今よりも感受性は強かったはずだから、夢に出てもおかしくない。

だが、そういう経験と夢とが、関連した象徴性を帯びて夢に現れたことはなかった。


多分、私自身が気づいていない、私の中の何かの変化でしかないということだろう。


若い頃なら「それは、君に出会ったおかげだ!」などとでもいうのだろうが、そうではあるまい。ユキにとって私は彼女が知り合った多くの人間の中の、極めて凡庸な一人にすぎない。


私がそれを忘れた時、夢や象徴は歪に姿を変え、私自身に災いをもたらすかもしれない。そう自分を戒めるべきなのだろう。


ユキはどんな夢を見るのだろう?


願わくば、幸福の兆しであって欲しい。

これは普通の大人の、普通の願いといえるだろうか?







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