第1部 いざ、最強へ

第01話 できないことは諦めよう

 あーあ……死んじゃったか。

 日本人の平均寿命は大体80年だから、90歳までは生きると思ってたのになぁ。

 もうちょっと、せめて成人するまでは生きたかったな。

 死ぬってことに恐怖を抱く人はいると思う。多分ほとんどの人はそうだろう。

 でもそれは死んだ後のことを考えて? それとも死に方のことを考えて?

 まぁ多分大半の人は死に方のことだろうね。

 だって死んだ後は地獄か天国に行くと思ってるだろうけど、実際は違う。

 肉体から離れて、魂だけになる。そして魂は消えないし、無くならない。

 ただ魂に刻まれた記憶がなくなるだけ。

 

 だから、僕は死ぬことに対して恐怖は抱かない。

 それよりも今一番怖いのは、”死んだのになぜこんなに意識がはっきりとしているのか”だ。人間は死後、3分くらい意識があるとか言ってたけど、僕の場合は違うだろう。だって僕の死因は蒸発死だよ? 肉体なんてものはもうとっくに消え去ったよ。

 

 と、いうことは考えられることは二つ。

 一つ目、今までのがすべてVRで現実ではないってこと。

 二つ目、どこかの世界に転生中だということ。

 

 まず一つ目、これはかなり確証が高い。

 なぜならそういう説もあるし、なによりその証拠だってある。

 生前僕はその説のことをものすごく信じていた。

 二つの中で最も有力候補だ。

 

 次に二つ目、これは……まずないだろうな。

 転生というのは漫画やアニメ、小説から生まれたワードであって、現実的にありえないのだ。さっきも言った通り、魂に刻まれた記憶は綺麗さっぱりなくなるのだから。もし記憶がなくなかったらそれはもう超越者だろう。

 


 そんなことを考えていたら、急に目の前が明るくなった。

 

 青い? 白いものが浮いている……。

 あれは雲か? ということはあれは空?

 鳥が飛んでいる……鳥……デカくね? 数メートルはあるぞ?

 これは……二つ目の仮説が正しかったか……

 

 僕……転生しちゃったんだ。

 

 とりあえず、混乱するのは避けて冷静になろう。

 手足の感覚は……あるな。心臓も動いている。

 周りの音は……草木の揺らめく音、鳥の鳴く声。

 ここはどうやら山か森らしい。なんで僕はこんなところに寝ているんだ?

 まぁ、起き上がるか……。

 

 「あ」

 

 声は出せるな。服も着ている。

 手の大きさからして子供か、あと男の子。

 鞄は……持ってない、手ぶらか。本当に何をしていたんだ??

 

 「とりあえず……この体の身体能力を確かめておこう」

 

 と、いうことで目の前にある木。

 それ目掛けて前蹴りを放った。

 コツンッという音が鳴り、脚はジンジンと痛くなった。

 まぁ想像通りか。

 

 「身体能力は基本的にそこらの子どもと変わらんか」


 一度でも身体能力がゴリラ以上であってほしいと思った自分を殴りたい。

 ここはアニメの世界ではない。現実だ。サポートスキルもなければ、チートスキルもない。武器も権力もない。

 落ち着け、できることだけをしよう。できないことは諦めよう。

 







 気づいたら夕方になっていた。

 ここまでで、できることとできないことの区別はついた。

 まず、できること。

 ・貧弱だが、殴る蹴る

 ・木を折って火は起こせる

 ・とてつもなく遅いが走りはする

 ・泳げる

 ・ジャンプができる

 次、できないこと。

 ・魔法を使う

 ・剣を使う

 ・金でなんとかする

 ・魔物を倒す

 

 以上。

 まぁ現実的に考えればこんなもんだな。

 あとスキルは何も無い。耐性もない。だが、そんなことはどうでもいい。

 

 「ご飯どうしよ」

 

 現時点での深刻な問題は食料がないこと。

 魔物は倒せないし、倒したとしても解体できないし。

 魚もどうせこの世界のはバカでかいんだろうな。

 そこら辺の雑草でもいいが、毒があっては困る。きのこも取ってきたが……

 きのこを食べるより雑草を食べたほうがマシかもしれん。

 

 「とりあえず、雑草茹でるか」


 戦争時代、日本軍がよくやっていたご飯だ。

 そこらの食べれそうな雑草を茹でて食べる。腹を満たすにはお湯をがぶ飲みする。

 この世界にはたんぽぽとか無いからな。なんの植物かさっぱりわからん。

 

 「火は起こせるんだよな」

 

 火を起こして、真ん中が窪んでいる石に水を入れる。

 この石を探すのにどれだけ時間がかかったことか……。

 

 何分かして沸騰したお湯に適当に雑草をぶち込んだ。

 味はもう気にしない。気にするべきは毒があるかどうかだ。

 

 「はぁ……食べるか」

 

 雑草を取り出して、切り株の上に乗せた。

 ちなみに色は緑・青・黒だ。いかにも毒がありそうなのが二つ……。

 

 僕は意を決して、雑草を口に入れた。

 茹でたから柔らかいけど、味はやっぱり不味い。

 そういえば、虫も候補にあったが……この世界の虫は信用ならん。

 

 「まぁ……食べれないことはないな」

 

 腹は全然膨れないが……。

 お湯……ガブ飲みするしかないか……。

 

 「あれ……? 視界が……」

 

 あぁ……毒か……。

 毒あったんだ……。青色の雑草か黒の雑草だろうな……。

 うぅ……死ぬのは怖くないが、痛いのは嫌だ……。

 今めっちゃ腹と喉が痛いし、体の中心が熱い……。

 なんていう植物だったんだ……。

 

 僕はそのままいつぶりかの闇の中へ落ちていった。

 今度は転生しないだろうな……。



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