第23話

「健に、大事な話があるんだ」

 だからこそ。かつての彰人にとって、健は重荷だったはずだ。自戒に苛まれていた状態では、慕われること自体が苦痛となっていたにちがいない。

「大事な、話?」

 彰人は、全てを話した。自分が罪人であること、偽ってきたこと、そしてこれから自首をしに行くこと。

「俺はずっと、健を欺いていたことになる。謝って許してもらえるとは考えていない。憎んでくれていい。ごめんな」

 俯いたままの健。当然だ。急にこんな非日常的な告白をされたら。慧と私が口を開きかけた、その時。

「・……てる」

「え?」

「待ってるよ、俺。当たり前だろう。俺は彰人にぃの弟なんだから」

 その笑顔は、心からのもので。

「ありがとう、健」

「その代わり釈放されたら、今度はちゃんと一年に一回くらい会いに来いよ」

 ―――釈放……。

「あぁ」

 彰人は、幸せそうに頷いた。帰るべき場所は、ちゃんとここにある。

「そろそろ、行きましょう」

 遠巻きに眺めていた汐里が、声を掛けた。窓の外は、茜色に変わり始めている。確かにそろそろ向かわなければ、日が沈んでしまう。

「慧さん、今まで本当にありがとうございました」

 彰人は最後に、深く頭を下げた。

「帰っておいで。ちゃんと待っているから」

「……はい!」

 彰人はもう、ちゃんと泣ける。

 泣くことができる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る