第22話

 慧は、彰人の姿を見るなり涙ぐみ、力いっぱい抱きしめた。

「よく、帰ってきたね」

 そう言いながら、何度も何度も嬉しそうに頷いて。

「ご心配おかけして、申し訳ありませんでした」

「謝るのは私の方だよ。約束を破ってしまって、申し訳ない」

 手紙は慧だけが読み、処分するように、と。

「いいんです。むしろ感謝しています。慧さんが時雨にあの手紙を渡して下さらなかったら、俺は一生このままでした」

 急に微笑みかけられて、赤面してしまう。

「時雨ちゃんも。彰人くんを連れ帰ってくれて、ありがとう」

「ううん、私はそんな……」

「俺からもお礼言わせて。本当にありがとう」

 慧と彰人に頭を下げられ、わたわたと両手を顔の前で振る。

「私はただ、彰人に会いたかっただけだから」

「ひゅーひゅー」

 やる気がない棒読みの冷やかしが、背後から聞こえてきた。慌てて振り返ると、扉に寄りかかって健がこちらを見ていた。

「健、何しているの」

「彰人にぃが帰ってきたって聞いたから、からかいに来た。ひゅーひゅー」

 棒読みなところが更に苛立つ。隣を窺うと、彰人は全く怒りを覚えていない様子。

「健か、大きくなったな」

「そりゃ四年も経てば大きくもなるだろ。成長期だし」

 そっぽを向いたまま、無愛想に応える。

「そうだよな。初めて会ったときはまだ小三だったのに、もう中三だもんな」

 ぱっと彰人に向き直り、何故か不安そうな表情になる。

「俺のこと、ちゃんと覚えて……?」

「当たり前だろう。俺はお前の兄貴なんだから」

 普段絶対に見せない、満面の笑み。子供らしい健のそんな姿を、私は初めて見た。きっと私の知らぬ間に、彰人は健の支えになっていたのだ。兄と死別している健にとって、兄という存在は大きい。

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