第21話
汐里に捜索を依頼している間、私もただ待っていたわけではない。私は私で、彰人の家族に起きた事件について調べていた。彰人の手紙には、矛盾が多すぎたから。本物の“真実”は別にあるのではないか。そんな淡い期待も持って、様々な方面から情報を集めたのだ。そこから見えてきたことから推測して、あの事件にはまだ続きがある。
私が手に入れた情報を、事件の関係者である彰人も知っているはずだった。
「ねぇ彰人。もう自分だけを責めるのはやめて。彰人だって、わかっているでしょう。あの“愛”はご両親の意思に反して歪められていたんだって」
彰人の両親は――重度の薬物中毒者だった。止めたくても止められない。ありもしない幻覚、幻聴に怯え、実体のない翳を恐れ。愛している、それ故に……憎んだ。
「俺はあの人たちの子供だ。俺もああなる」
「ご両親が薬に手を出したのは、彰人が産まれた後。彰人には何もない」
「理論上はそうかもしれない。でも………この穢れた手が綺麗になることは、一生ないんだ」
守りたくて掴んだはずだった刃は、父の背に刺さり。
救いたくて退けようとした刃は、母の腹に刺さり。
「俺はこの手で、何度も時雨に触れた。その度に、苦しかった。時雨をあの赤に染めてしまったような気がして、辛かった。俺は……っ!」
頭より先に、身体が動いていた。ガタン、大きな音を立てて、椅子が倒れる。駆け寄って抱きしめた彰人の身体は、震えていた。初めて頭を撫でてくれたときのように、その肌は冷たくて。
「彰人。もう、目を背けるのは終わりにしよう」
沢山傷ついた。犯した罪以上の罰を、自らに科してきた
から。だからこれは、救いのための贖罪。
「警察に、行こう?」
びくっ、と彰人の身体が撥ねる。
「その手が穢いと言うのなら、綺麗になればいい」
正直なところ、彰人に一生共に逃げ続けてくれと頼まれれば、いけないことだと知りつつも協力できてしまう。でも、彰人に必要だったのは、共に罪の意識を背負って生きてあげることじゃない。罰してあげる、強さと優しさだ。
震えが―――止まった。
「いくよ、警察に」
そっと抱きしめ返される。
そのときの彰人は、心の闇から開放された晴れやかな顔をしていた。
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