第20話
「私、慧さんから全て聞いたの」
ばっと上げた顔は、くしゃくしゃに歪んで。
「彰人が慧さんに宛てた手紙、読んだの。全部、全部知って、それでも私は彰人に会いたいと思った。以前よりずっと、彰人に会いたいって」
「どうして。あの手紙を読んでしまったのなら、知っているんだろう。俺は殺人者なんだよ。ずっと皆のこと…時雨のこと、騙してきた」
叫びながら、大粒の涙をぼろぼろと零していた。初めて見た彰人の泣き顔。
「確かに彰人は罪人で、その罪は償われなくちゃいけない。でも、そのことと私が彰人を…彰人のことを……ずっとずっと―――好きなことは、関係ないよ」
見開かれた彰人の大きな目から、つぅと静かに透明な雫が流れ落ちた。
「私、彰人が好きだった。大好きだった。ううん、過去形でなく、今だって大好き。愛している。でも、ずっと言えなかったし、伝えるつもりも無かったんだ」
彰人は私の―――初恋の人。この気持ちを、伝えたかった。でも。
「だって私が伝えようとする度、わざと彰人が逃げていることがわかっていたから」
口には出していなくとも、残念ながら私の心はただ漏れで。一番そばにいた彰人から隠し通せるほど器用でもなくて。バレバレの秘密を抱えたまま、私はそれでもそばにいたくて。そして気づいてしまった。彰人が私の想いを望んではいないことに。
返事をわかっていて告白できるほど、私は強くなかった。だから、この初恋はもう叶うことはないのだと、彰人の卒業の日に諦めた―――はずだった。
そんなことは全くなかった。現に今この瞬間こんなにも彰人を想っている。心拍数の上昇が止まらない。涙が出るほど、愛している。
「たとえ彰人が罪人でも、私にとって大切な人であることに変わりはないよ。私、彰人のことが…」
「待って」
言葉を遮られた。
どうして。
伝えることすら、許してくれないと言うの……。
「俺にとっての恋愛感情の見本は、両親だったんだ。一二年間、一番近くであの二人を見てきた。だから…怖かったんだ。誰かを愛することが。いつか俺も、殺してしまうんじゃないかって」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます