第15話
手がかりがつかめないまま、悪戯に時間だけが流れていった。私自身も手紙に記されていた住所の辺りを尋ねてみたが、収穫は無かった。
汐里から連絡が入ったのは、私が高校を卒業して一週間ほど経ち、四度目の桜が花開いた頃だった。
「もしもし」
『しぃちゃん、いたわよ。彰人くん!』
それは、待ち望んでいた言葉。
「ほ、本当ですか!」
『嘘なんか吐かないわ。……ほら、泣かないの。高校は卒業したのに、まだ泣き虫は卒業できないみたいね』
嬉しくて、嬉しすぎて。涙が溢れて止まらなくなった。
『逃げられちゃうといけないから、監視しているだけでまだ彰人くんに声は掛けないでもらっているの。時雨ちゃん、一緒に迎えに行きたい?』
「はい」
もうすぐ、彰人に会える。
『いつが良いかしら』
「なるべく早い方が嬉しいです」
ずっと会いたかったのだ。一分、一秒でも早い方が良い。
『今からでも迎えにいけるけれど、どうす…』
「行きます!お願いします」
皆まで聞かずに即答する。
『そう言うと思ったわ。猪木院まで車で迎えに行くから、支度しておいて』
電話を終えると、すぐさま院長室へ向かった。ノックも忘れ、入室してしまう。
「慧さん!」
驚き顔は、何も言う前にぱっと笑顔へ変わった。
「見つかったんですね?」
頷いて見せると、更に嬉しそうな顔をした。
「汐里さんと、迎えに行ってきます」
「彼を、救ってあげてください」
「はい!」
退室し、今度は自室へと飛び込む。準備を整えて、門に出て汐里を待った。車がやって来るまでの時間が、いやに長く感じられた。
「お待たせ。どうぞ乗って」
窓を半分開いて指示される。助手席に乗り込むと、直ぐに発車してくれた。
「彰人くんは他県でお花屋さんをしているみたい」
想像してみると、それは彰人にとても似合っているように感じた。
「ひとつ訊いても良いかしら」
「何でしょう」
改まった様子の汐里に、少し緊張してしまう。
「彰人くんに会って、何を伝えるつもりなの」
ずっと前から、決まっていた。
彰人に会ったら、伝えたいこと。
「決まっています。でも……今はまだ、言えません」
隣で小さく笑う気配がした。
「そうね、言うべき相手は私ではないものね。ちゃんと、彰人くんに伝えてあげなさい、しぃちゃんの気持ち」
「はい」
高鳴る鼓動が訴える。
私の××は、まだ終わっていなかったのだと―――。
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