第14話
手紙に記されていた住所は県外のもので、私の全く知らない土地だった。そんな場所で慣れない人捜しを自分一人でできると思えるほど、楽観主義者ではない。慧の薦めもあり、まずはその手のプロに依頼することにした。
猪木院の卒業者で大手の探偵事務所に勤めている人がおり、その人に連絡を取ると、この無謀な人捜しを快く引き受けてくれた。早速事務所を訪ねると、ふかふかの白いソファーのある部屋に通された。しばらく待っていると、懐かしい顔が現れた。
「お久しぶりです、
「しぃちゃん、大きくなったわね。すっかりお姉さんじゃない」
私は汐里のことが大好きだった。面倒見もよく、年少組みを一番可愛がってくれていたのは彼女であった。
「引き受けてくださって、ありがとうございます」
「慧さんには沢山お世話になったから。恩返しができると思うと、逆に嬉しいよ」
私より六つ年上のかつての姉は、施設にいた当時と変わらず、よく笑う快活な人のままだった。
「人捜しの依頼だってことだけれど、誰を捜しているの」
「石山彰人です」
「彰人……って確か、凄く無表情だったあの?」
「はい。汐里さんが卒業した後は、ちゃんと表情を出せるようになっていました」
彰人と汐里が同時に施設にいたのは、一年間だけだ。
「そっか、元気になれたんだね。良かった」
二人が話しているところを見たことは無い。それでもちゃんと彰人のことを覚えていた汐里は、やはり凄いと思う。
「その彰人くんが行方不明なのね」
首肯し、鞄の中から持参してきた封筒を取り出した。今はまだ“真実”を公にしたくはなかったから、中身は慧に預けてきた。汐里に見せたかったのは中身でなく、封筒に書かれた住所だった。
「卒業してから施設に届いた連絡は、この封書一通だけです」
汐里に差し出す。
「県外ね。これはいつ届いたの」
「卒業した直後らしいので、もう三年以上前です」
汐里は難しい顔をした。
「やはり、これだけじゃ…」
「やってみましょう」
言葉を遮って、はっきりと言い放った。
「やれるだけのことはやるわ。そうでないと、後悔するもの」
そうだ、思い出した。
私の諦めの悪さは、彼女譲りだったのだ。
「よろしくお願いします」
封筒と、卒業の日に撮った彰人の写真を渡し、家路についた。
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