第13話
震える手から、便箋がぱさりと床に落下する。
「それが、彰人くんの真実だよ」
そっと、抱きしめられる。私は、慧の胸の中で声も立てずにぼろぼろ泣いた。泣くことしかできなかった。嘘だと思いたかった。けれどこの筆跡は紛れも無く、私の良く知る彰人のものだった。
「私…何もわかっていなかった。本当の姿を受け入れるという決意があったのに、彰人のことわかっているつもりになって、何もわかろうとしていなかった」
涙が出ないのだと、虚ろな瞳で語った彰人。自身でも気づけていなかったであろう、深すぎる悲しみや苦しみや…言葉で表現することもできない全ての感情を、わかってあげたかった。
―――「両親が心中してさ。独りになっちゃったんだ」
笑顔で言い切ったのは、罪から逃れたかったからではない。それが本当の愛し方を知らなかった彼の、不器用な優しさ。偽らないでと願ったのは私。そして、偽らざるを得なくさせたのも私。
「彰人は、何にもわかってないよ……!」
たとえ自らの手で両親を殺めていたのだとしても。仮面の下にあったのは、重過ぎる自戒による断罪を繰り返したが故の、蒼白な顔だったから……。
共に過ごした六年間が無かったことになるわけではない。偽ることしかできなかった、その偽りも含めて“本当”だから。
呼吸を整え、しがみついていた慧から離れる。しっかりと、その目を見据えて。
「すみません。就職の件、保留にしてください」
頭を深く下げる。
「どうするつもりだい」
「彰人を、捜します」
今も尚罪の中で苦しんでいるであろう彰人。そうさせてしまったのは私だから。
「見つかる可能性は、低いかもしれませんよ」
最後に会ったときから、もう三年も経ってしまっている。それでも、何もしないわけにはいかなかった。
「やる前から諦めたら、絶対に後悔します」
もう一度、慧に抱きしめられる。
「時雨ちゃんなら、きっとそう言うだろうと思っていたよ。だからこそこの手紙も、捨てずにとってあったんだ」
「慧さん……」
「スタッフの枠は、空けておくから。彰人くんを連れて帰っておいで」
血の繋がりは無いけれど、慧は紛れも無く私の父親だった。
「ありがとうございます」
待っていて彰人。
今、迎えに行くから。
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