第11話
きっと母は父を愛していました。どんなに蹴られ、殴られようと、母は父を抱きしめて「大丈夫だから、落ち着いて」と、優しい顔で何度も何度も繰り返していたのですから。
きっと父は母を愛していました。俺が嫌った赤い瞳の母でさえ、全てを受け止めていたのですから。
きっと俺は母を愛し、そして父を憎んでいました。理由はありません。
きっと両親は俺を嫌っていました。その命を奪い去ったのですから。
それが、全てを失った俺が考え続けて出した、俺たち家族の関係性です。
廊下を進む足音がして、締め切っていた部屋の扉が開かれました。
「うっ…何だこれは!」
見知らぬ男性が、ハンカチで鼻を押さえて部屋中を眺め回しました。それに続くように、何人もの不法侵入者が両親を取り囲みました。
「おい、子供がいるぞ、生きている」
彼らの目が、一斉にこちらを向きました。あの家での記憶はこれで最後です。そこでぷっつりと、意識が途絶えてしまったらしいのです。
後は慧さんがご存知の通りです。保護された俺は、猪木院へ入れられました。
警察は、両親の死を心中として捜査を終了しました。その誤判には、俺の偽りの目撃証言が一役買っています。今となっては、もう俺の罪を立証することは誰にもできません。俺はそれを幸運に思うと同時に、苦しくもありました。
一生誰にも打ち明けず、自らを罰して生きていこうという決意は、一人の少女によって揺るがされました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます