第6話

 どうも、ウィルク・バーチェスです。

 今日は学園の入学式とクラス分けの日です。


「噂の勇者はまだ来てないか…」


「おそらく国王陛下からの保護宣言、いえ王女殿下との婚約発表を行なってからでしょう」


「本気で取り込みに行ったのか。まあ帝国とのパワーバランスを考えたらそうもなるか」


 入学式が行われるホールの周辺を見回す。中には此間こないだの式典で見た貴族が多数いる。


「分かっちゃいたがここまで有名どころが多いと気後れするな。あれニリズ子爵の長女じゃないか?」


「おや、現当主の方針から言えば中央に近い学園には通わせないと思っていましたが。方針から逸れて通わせる理由が…?」


「情報が無さすぎるな。時間も近いし商隊長に合う日に聞くことにしよう」


 使用人として連れてきているのでカトリーと離れ適当な席に座る。ここでも少し周りを見渡すがやはり貴族か裕福な商会の子供が多い。

 そもそも、ここは色々と入学するのにハードルを設けているからそういった家の子供しか集まらないのだが。


 ホールに着席の笛が響く。拡散魔法ってああいう使い方も出来るんだな。

 関心していると隣から数人が話しかけてきた。


「すみません、隣宜しいですか?」


「あなたバーチェシズ商会の?あとでどうかしら」


「抜け駆けは良くないよ!ねえねえ、クラス分けの時どうかな?」


「えっと…申し訳ありません。ひとまず入学式が終わるまでまっていただけると…」


「あ、ごめんなさい。そうね、今話しかける事ではなかったわね」


「エミィ!もう学園長来てるよ!」


「ごめん、道に迷ってた」


 また1人増えた女子たちを横目に見ながら必死に頭を動かす。おそらく4名全員が貴族の娘。今の所名前も分からんしどうしようもないか…?

 いやよく考えろ。4人は見た感じ仲良しグループの一員、もしくは4人で1つの仲良しグループだろう。

 今世の貴族社会では地理的に離れ過ぎていたり、流通や政治的な繋がりが薄い貴族同士は中々知り合う事はない。

 4つの貴族が仲が良い場所で考えられるのは3つ。1つは帝国との国境付近のユーベルグ侯爵を筆頭にした国境軍構成貴族。もう1つは北の方にあるウキト山脈を囲う4領。最後に中央貴族筆頭の四大公爵家。

 4人の令嬢のうち1人がエミィと呼ばれていたのを考えると、ウキト山脈の4領の中にエミリーという名前の娘はいない…はず。多分。

 国境軍の方は最近ピリついてるのもあって態々わざわざ娘をこの学園に通わせないだろう。となると消去法で四大公爵家になる訳だが…


「やべえ〜」


「?」


「あ、いえ、失礼」


 4人グループの茶髪の令嬢がこちらを見た。めっちゃ耳ざといじゃん。


 そのあとは学園長だったり、王妃様からの有難いお言葉を貰った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ホール隣の校庭、校庭?運動場?平原?

 まあとにかくだだっ広い場所に集められた。


 教員の言葉が響く。


「これより、ステータス測定を行う!順次並ぶように!」


 あちこちにデカい水晶と金属を合わせた箱みたいなのが置かれている。あれが今世で唯一ステータスを見るであり、前世のゲームだとステータスの情報を保存できるものだった。


「あ、こっちにいたんだ!おーい!ウィルクくんこっちにいたよー!」


「ハァ、ベルさん。そんなに大声出さなくても聞こえてますわ」


「あはは、まあそれがベルだし」


「イヴィに同感。ベルからうるささを取ったら何も残らない」


「みんなひどくない!?私だって静かにするときは静かにしてるよ!」


「あの、皆様はもしかして四大公爵家の…?」


「そういえば名乗ってなかったわね、ごめんなさい。その通りです。わたしはイヴェット・デ・テイルリーと言います。」


「アラベル・デ・モーントです!みんなからはベルって呼ばれてるよ」


「わたくしはクリスティーン・デ・ボルストスと言います。以後お見知り置きを」


「エミリー・デ・マーシル。よろしく、ウィルク」


「ウィルク・バーチェスです。どうぞよろしくお願いします」


 やっぱり四大公爵家だった。つかなんで俺に話しかけてきた?飢饉のときに色々手回ししたからかな?いやでも直接王家に献上だったから特に関わりはないはず。

 直接聞いた方が早いか。


「ところで、なぜ皆様は私に声をかけてくださったのですか?」


「ウィルクくん。態度が固い」


「へっ?」


「そーそー!もっと砕けた態度の方がいいって!」


「で、では…なんで僕に声をかけたんですか?」


「貴方のお姉様のヴィーラさんがよく話されてましたの。弟は兄や父よりも優秀だと」


「姉と面識が!?そのー…大変姉が迷惑をかけました」


「いえいえ、中々に楽しかったですわ。お陰で魔法も上達しましたから」


「なるほど…あの姉が他人の役に立つ時が来るとは思わなかった」


「お姉さんと何かあるの?」


「あーいえ、少しやんちゃなので制御に工夫がいると言いますか。というか、僕以外の理由はなんですか?」


「簡単。バーチェシズ商会の勢いは止まっていない。ペイラー商業ギルドもリーンズ商会もそれなりにダメージを負っていたし、今もその回復に時間がかかっている。それなのにバーチェシズ商会は少ししか影響がなく、王家にあの量を献上出来るほどの資金力と各方面への面識がある。これに興味を持つなという方が無理な話」


「アッハイ。あっ、いえそれは当商会が懇意にしているキャラバンが優秀なのであって、商会自身に伝手がある訳ではありません。現にこの間幾つかのキャラバンが引き抜かれました」


「そうなの?最近宝石も扱い出して、しかも品質が良いって話聞いたよ?」


 くっそ、流石公爵家情報網が広い。でも飢饉の影響を軽微に出来たのは親父はじめ番頭さんや各支店長が優秀で各々の伝手を使ってくれたからであって俺に聞かれても困る!あと宝石はゲーム時代の記憶をもとに掘り出したから経緯は出鱈目なんだよ!


「まっまあ、それは後々。影響が少なく見えたのはうちで独自にやっている貯蓄と各店員の頑張りのおかげです。宝石はその、色々と契約もあるのでご容赦を」


「仕方ありませんわね。とはいえ、時間はありますから。これからも話し相手になってくださると嬉しいですわ」


「ええ、是非」


 そんな会話をしていると計測員から呼ばれる。


「次、この水晶板に手をかざして数秒待て。名前は?」


「ウィルク・バーチェスです」


 計測員が裏で何か動かしている。なんか設定とかあんのか?


「君は魔力量は桁違いに多いと書類にあった。念の為リミッターは無しで計測してもらう」


「わかりました。それで、このまま待っていればいいんですか?」


「ああ、そう───いや、少し待て」


 そう言って周りの計測員や教員を呼び集める。


「学園長、この生徒です」


「ふむ、確かに信じられんな。が、これは教会すらも認めた祝福品だ。この結果を信じず、故障やズルなどと言ってしまえばそれは背信行為と同じ事になる。信じるしかないだろう」


「ではこの通りに記録します。ウィルク・バーチェス。魔力量6385990!」


 思ったより増えてたな。やっぱレベルだけ1からだったのが原因だろうな。周りのざわつきと四大公爵令嬢の皆様の目は一旦気にしない事にする。

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