第2話
悩みながら歩いていたら店に着いてしまった。仕方ないので問題は先送りにしておく。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ。旦那様は庭の方におります」
「なら庭の方に行くよ。ありがとね」
番頭が恭しく一礼して見送る。随分と上に立つ身振りを出来るようになったなと自分でも思う。
庭の方で木箱を積み上げ、おそらく目録であろう羊皮紙を広げている父のディジスがいた。
「──ラビットの魔石が9つ、ゴブリンジェネラルの魔石が1つ。目録の確認を取れた。お返ししよう」
「ではこれで。またよろしくお願いします」
ギルドの女性職員が離れたのを見て父に近づく。
「父さん、交渉の方終わりました。最終的にはボア系素材の優先購入で納得して貰いました」
「そうか!ボアの脂や毛皮は勿論、牙もかなり需要が増えている。よく纏めたぞ」
肉体年齢に引っ張られてるとはいえ、中身は働き盛りの歳だが褒められるのは嬉しい。
「そういえば父さん。来年からの学園なのですが」
「?何かあるのか」
「学園にはダンジョンがありますが、同時に入学する大半の生徒がある程度ダンジョンでの経験があると聞きます」
「ダンジョンに行きたいのか。少し待て」
従業員を呼び羊皮紙を持って来させる。かと思ったらそのまま従業員が走り出して行った。
「父さん、なにを持たせたのですか?」
「護衛の依頼書と報酬の前金をギルドに渡しに行かせた。1週間もすれば受注するパーティーが出るだろうから待っていなさい」
「ありがとうございます、父さん」
深々と礼をし店舗に戻る父を見送る。
見えなくなった辺りで頭を上げ息を吐く。やはり7年経ってもあの威圧感は中々慣れない。
「坊ちゃん!ここにいましたか」
「カトリー。どうかした?」
「お忘れですか?鍛冶屋の日ですよ!」
「そうだった!すぐ用意する」
鍛冶屋の日。簡単に言うと俺が引き継いだスキルの1つである鍛治スキルがどんなものかを試す日。
通りを2個挟んだ向こう側にある鍛冶屋はよく武器などを卸して貰っていたので、その伝手で鍛冶場を貸してもらったら継続的に来てくれないかという話になったのだ。
「準備できたよ!あれ、その格好は?」
「一応坊ちゃんの護衛ですので動きやすい格好にと」
「そっか。よく似合ってるよ」
カトリーと呼ばれる護衛は本名カトリーヌ・ルラン。専属メイドみたいな事もやっている女性。
鑑定によると年齢は17歳、レベルは48。ジョブは暗殺者Lv.86、料理人Lv.77、刀剣士Lv.51の3つ。ステータスは
この世界の基準だと普通に強い。ちなみに影刀士の条件解放のために刀剣士のレベルを55にしようとしている最中だ。影刀士になったらボスクラスじゃないと止められなくなりそうで怖い。
そんな彼女だがプロポーションが良い上に今はパンツスタイルで腰に長剣を佩いている。エロかっこいいって実在するんだな。てかだいぶ凛々しいというかちょっと近寄りがたい雰囲気出てるなこれ。
「なんか…殺気強くないかな」
「そうですか?街中での坊ちゃんの人気ぶりからすれば追い払うのに丁度良いと思いますが」
「アッハイ…いつもお疲れ様です」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
通り2個しか挟まないので鍛冶屋にはすぐ着いた。店前には店主のお弟子さんが待っていて俺を見るなり頭を下げた。
「本日もよろしくお願いしますウィルクさん。師匠は鍛冶場にいますのでご案内します」
鍛冶場に着くとここの店主たるドワーフが走って頭を下げてきた。
「お忙しいとこすいやせん。本日は何を打たれるので」
カトリーの長剣を見る。刀剣士は普通の片手剣も使えるがやはり刀の方がいいだろう。
「刀を作ろうかな。使って欲しい金属はある?」
「ありやす。オイ!フォレスティックシルバーの塊を持ってこい!」
「フォレスティックって事はダルバ森林のゴーレム?」
「ええ、最近討伐されたんですよ。ゴーレム金属は希少なんで是非ウィルクさんに使って欲しいと思って買い上げました。ちなみに討伐したパーティーは女性だけらしいですよ」
有難い話だが最後のいるか?いや、基本的に女性で冒険者は珍しいからか。魔法でも使えなきゃ中々活躍は出来ないだろうからそりゃ討伐の話と一緒に広まるか。
ともかく刀を鍛える。前世だと流派とか古刀とか色々あるらしいがここはゲームの世界とほぼ一緒。
折り返し鍛錬というらしい行動ぐらいはやらなきゃならないが後はスキルに任せて槌を叩いていけばいい。それ故に俺の武器鍛造は化け物って見られているが。
「副素材はこっちで用意できたから大丈夫だよ」
どさーっとストレージから取り出す。ゲーム時代のアイテムを持ってきている為、怪しまれないよう少し希少かなぐらいの素材で抑えておく。
「それじゃ打つからよく見ておくように」
店主やその弟子、カトリーが静かに見守る。
カトリーはそんな凝視しなくてもと思うけど。
スキルに沿って槌を振い、時に直感スキルに従って鍛治スキルの補助を無視して打つ。打ち終わったら焼入れをして終わり。
鍔とか持ち手とか鞘はあらかじめ用意してくれていたので、それらを合わせて完成!
流石に疲れるなこれ。ゲームの時みたいに1日で何十振りも作るのは無理だなとここで槌を振う度に思う。
ひとまず完成した刀をカトリーに渡す。
「いつもありがとうカトリー」
「このようなものを…家宝にいたします」
「あ、うん。道具として大事にしてくれればそれでいいからね」
古今東西上流階級が剣を下賜するというのはそれなりの意味を持つ。
マジで今世が貴族じゃなくて良かったとか思いながら店に帰った。
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