月見の夜
もやし
月見の夜
日が短くなってきた九月の半ば。
私は急ぎこの文章を書き記している。
なんの変哲もない月曜の夜、コーヒーを片手に外を眺めていた。やや雲はあるものの暗い空には月が見えた。これまでの人生で月見なんてしたこともないのにふと思い立ったのだ。働きもせず、日がな一日ダラダラと過ごした私にいつも通り明日がやってくると思っていた。そんな明日がどうやら来ないらしい。
いったい何故そんなことを考えるに至ったか。それはあるニュースのせいだ。
『歴史的猛暑続きで皆さんの明日が不足しています』
そんな緊急速報が流れた。数日前の出来事だ。慌てふためくニュースキャスターが言うには、連日猛暑が続いたせいで熱中症が蔓延し過去最大規模で明日達が軒並みいなくなってしまったと言うのだ。そんなバカなと思ったものの、連日暑さは続いているし、私も心底参っている。故に信憑性は高い。
すぐに世界ではパニックが起こり、多くの人々が明日を探した。
今までは何もせずとも向こうからやって来ていたのに、いざ探すとなると何処にいるのか皆目見当もつかない。誰だって明日のことをよく知らないのだ。
私も最初は驚き恐れたものの、数分後にはまぁ仕方ないかと受け入れていた。
一日目、気になるドラマの最終回が放送されるので割と簡単に明日を見つけることができた。
二日目、通院の予約をしていたので診察券の裏に明日を見つけた。
三日目、待ち望んだゲームの新作の発売前日。公式SNSの投稿から明日が飛び出してきた。
四日目、ゲームはとても楽しかった。それはもう時間を忘れるほどのめり込んだ。不眠不休でゲームをクリアすると感動的なエンディングに涙した。それはもう泣きに泣いた
涙を拭いて目の前を見ると
そこに明日はいなかった。
それはそうだ。このゲームには続きがないのだから。
定期購読している週刊誌も先週が合併号のためそこに明日は載っていない。
スマホを見ても、テレビを見ても、何処を見ても私の周りに明日はいない。
文字通り明日が見えなくなったのだ。
そんな一日を過ごし、夜を迎え、今この文字を残している。
誰の目に留まるかも分からないが書いておこうと思う。
当たり前が、当たり前じゃなくなる時はおそらく来る。
その時に慌てないために、その時に悲しまないように、その時に迷わないように。
日々を生きるべきだと思った。
生憎、私は今日に残るけれど。
明日を生きる誰かに届きますように。
そんなことを考えながら目を閉じた。
月見の夜 もやし @_mayora13
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