第3話知ってる人と知らない人

「コレ、ほんとに美香なんか?」

 

俺が美香から機材一式をもらうと決定した次のホームルーム前。俺はある動画を見ていた。


『お前らー!騒いでるー!?甘原まりゅだぞ☆今回は話題のインディーズゲームに行くぞ!でっでっでででん、カーン!』


それは、甘原まりゅというブイチューバ―。

昨夜、ギリギリ聞き出せた甘原という苗字からたどり着いたブイチューバ―なのだが…


「俺が知ってるのとの落差が凄い…」


そこに映るのはオドオドしたイメージの美香と大きく乖離した、しゃべり方にテンション。

どう見たって小山美香の要素が無いのだが、甘原という苗字でヒットしたブイチューバ―がこれともう一人いたのだが、そちらは完全に男だった。


必然的にこの甘原めりゅというのが小山美香になったという訳だが…


「おーっす、駿。何見てるん?珍しいじゃん、動画見てるの」


そこで後ろから声をかけてきたのは西谷竜司。

俺が中学からの腐れ縁だ。


「おはよう、竜司。いや…友達に進められてね…」


「ふーん、変なの見てんな。あれだろ、ブイチューバ―。駿、絶対興味ないと思ってた」


「え、竜司知ってんの?」


ここで衝撃のカミングアウト。

俺は友達がブイチューバ―を知っていることに驚いた。


竜司は俺と同じで家にこもるよりも、外でなんだかんだしてることが多かった人間だ。


そんな竜司でさえ知ってるものを俺はつい先日まで知らないという事に、少しばかりショックを覚えた。


「竜司知ってるんだな…」


「あたりまえじゃん、俺も興味はないけど名前だけは知ってるぞ。てかそっちこそ知ってるの?スゲーいがいなんだけど」


「まあ…ちょっと興味出てきて…」


実際は興味はそれなりだ。

このブイチューバ―を調べるのは小山美香との話題を合わせるために過ぎないというのがこれを調べている理由であったりする。


ぶっちゃけ美香と付き合えればどうでもいい、下心丸出しではあるが、あんな美女見たらお近づきになりたいのが男のさがなのだろう。


「てか、昨日どうだったん?」


「昨日?はは、なんの話だろうね一体」


バレてる。昨日は確かにこいつの誘いを断って美香の所に行ったのだが…バレるの早すぎやしないか?


俺は美香と会ってから数分程度しか会話してないし、なんだったら美香が来たのは下校時刻を大幅に過ぎたころだったのだ。


そのころ竜司が学校にいたとは考えにくい。


「いや、昨日朝からソワソワしてたじゃん、バレバレすぎてキモかったからな?」


まさか、文字通りバレる以前の話だったとは恐れ入る。


というか友達に向かって、キモいとかあんまし言うんじゃないよ?


「まあ、彼女いないお前からしたらとんでもなくうれしい日だったのかもしれんけど『あーごめん、この後すごく大事な用事あってさ、待たせるわけにはいかないんだ』とかすげーくさいこと言ったのマジでおもろかったぞ」


そう言って竜司はケラケラと笑って見せた。


「うるさいうるさい、いーじゃん彼女欲しかったし、少し浮かれ気味だったんだよ」


「で相手は誰だったん?」


俺はここで全部喋ったら、実は今見てるブイチューバ―活動を小山美香と一緒にやることになったという話をする羽目になる。


どうせ言ってもこいつは理解できないのだろうから、少し話を隠しながら聞かせよう。


というか竜司は小山美香のの事を知っているのだろうか。


「小山美香って知ってる?」


「誰それ?」


だよなー。俺も知らないってことは竜司も知らないってことだ。


「小山さん?知ってんの駿」


そう言って俺に話しかけてくる女子生徒がいた。


長い黒髪を緩くパーマにかけた、今どきの女子高生だ。

目元だけ薄く化粧をしていて高速に引っかからないラインを本人なりに探したこのように落ち着いたのだろう。


そして、耳元には小さなピアスが開いており本人が端正な顔立ちなだけあってか、とても似合う。

背も女子にしては高い方で百七十以上あるかもしれない。


そんなモデルみたいな俺の友達が大崎緋咲おおざきひさきだ。


「おはよう、緋咲。昨日ちょっとね」


「告られたらしーぞ?駿が」


「はあああああああぁぁ!?」


そう言って絶叫をあげる緋咲。なんだ、絶叫するの流行ってるのか。


「いや俺も昨日名前知ったばっかりで!どうしていいかわからなくてさ!」


俺は彼女を落ちつかせるようにそう切り出した。『カップル系ブイチューバ―をやりましょう!』といわれて正直参ってるから嘘ではない。


「何、どういう事なの…?てかどこで知り合ったの、あの子学校あんまり来ないらしいし…本当に謎なんだけど」


「え」


俺はそこでまたもや衝撃の事実を知った


(学校来てなかったんだ…)


なるほど、知らないのも道理である。


しかし、これで彼女がどこで俺を知ったかが不可解になった。


そんな考え事しているを俺を知らないでか、いぶしげな表情で俺に問いかけてくる。


「いや…あんたが付き合う付き合わないとか、どーでもいいけど…ちゃんとした人選びなよ?」


「別に悪い子じゃないでしょ…なんでそんなに攻撃的なんだよ」


彼女はあきれ顔で俺にこう言った。


「別に小山さんが悪い人って言ってない、そうじゃなくて、ちゃんと相手の事知ってるの?まさか付き合いたいからそこまで知らないけど付き合う、なんてマジで男として最底辺だからね?不誠実の極みだよ」


「ぐっ」


心がいたい。俺の表所に合点がいったのがさらに攻撃力を増した緋咲が俺の心をえぐる。


「あきれた…本当にそうだったらドン引きなんだけど。ちゃんとした人っていうのはさ、性格とか生活リズムとか趣味とか、そういうの込みで考えてちゃんと知ったうえで許容できる人の事言ってるの。知らないっていうのはそれだけ不義理なことなんじゃないの?」



「……」


俺は緋咲の言葉にぐうの根も出なかった。


俺は小山美香のことをブイチューバ―が好きである情報が無い。彼女がどんなものが好きで、嫌いで、なんで俺を選んでくれたかなんても一ミリもしらないのだ。


それは緋咲が言ったように、今の俺は不誠実で美香と付き合えればいいと思っていた。


俺は知らなければならないのだ、美香と付き合うどうこうの前に。

俺はどんなところが好きで彼女と付き合いたいと考えたのだろうか。俺は結局顔しか見てない最低な野郎だったってことだ。

俺が相手だったら心底腹が立つ。

きっと俺がこの状態で美香と付き合うとなってもすぐに疎遠になってしまうのだろう。

そんな未来を思い描き俺は少しぞっとした。


「でなんで小山さんの事知ってたの?」


「あんた…切り替え早すぎだっつーの…あんたら馬鹿だから見る機会ないと思うけど、テストの張り出しで毎回一番なのに不登校だったら名前くらい噂するでしょフツー…」


今日は本当に驚かされることばかりだ。

とりあえず、知ってることリストに頭もいいを追加しなきゃいけない。







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俺はこれからカップル系Ⅴtuberを始めるらしい まぬぱあ @RlyehSAN

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