第2話ブイチューバ―って実家が太い人以外始められんのか
俺は夜中、ベッドに寝転がりながらこれまでの事を思い出しながら調べ物をしていた。
「ブイチューバ―ね…」
俺が今調べているのは動画サイト上で二次元のイラストが視聴者と楽しく喋っているという配信だった。
『ボンジョルノ!小悪魔系Vtuberのラ・モーアでーす!』
キュートな幼い顔立ちに、碧眼と赤い目のオッドアイ。そして日本人ではないのだろう(小悪魔を自称しているのだったら人種なんて些末な問題ではあるが)、西洋じみた薄い金髪に桃色の裾カラーを入れてこれでもかという風に現実離れをしているキャラクタ―である。
そして何よりもさりげなく露出している小さなな角と背中から生えている小ぶりな羽根。それらが彼女が小悪魔であるという事を決定づけている。
「これが…ブイチューバ―」
なんとも奇妙な感覚を覚えた。それは、話方であったり、話題の空気感であったり、それは見慣れない物であるから仕方がないものであるかもしれない。
生配信だったら俺だって他のSNSアプリでやることが少なからずあったのだが、それに比べて規模感が違う。
数百、数千、人によっては万単位の配信が行われている。俺が配信をした時も三十分で合計十五人ぐらいか。
しかもこれは同時に十五人じゃなく全体を通しての数だ。
現在進行形で数千人を集めているこのラ・モーアさんというのはとんでもなく恐ろしいもののように思える。
彼女は言った
『カップル系Vtuberで天下を取ってほしいんです!』
彼女はこれを超えるために俺を誘ったのだ。
昔のアイドル戦国時代よりも群雄割拠であるこのブイチューバ―で。
それはカップル(?)である俺にもかかっていることであるのだ。
しかし何より─
「初期費用たっか…」
何やらまずPC、それを映す画面(モニターといわれているらしい)、ヘッドフォンなどの周辺機材。動きをトレースする機材。
アプリその他もろもろ合わせて約四十万。
しかしこれは素人概算の値であり、やろうと思えば初期費用ゼロでも始めることができるらしい。
そして動かす二次元の絵。コレ一番ネックよな…。
「絵なんて誰に頼めばいいんだよ…」
人生において、家でじっとしているより外でサッカーをする人生だっため、生憎と友人に絵が上手い人なんてゼロであった。
これを素人が絵を描く人に頼んで良いものなのか?
絵が上手い人なんてどこで探せばいいんだ?イラストで商売する人って企業とかにいるんじゃないのか?
俺は小山美香と『カップル』系を目指すにあたって、基本のきの字も知らないのだ。
「てか、カップル系ってなんだ…俺が調べている人の中にそんな人いないし、何参考にしたらいいかわからん…」
というか、こういうのは言い出しっぺに確認をとった方が早いのではないだろうか?
知識がゼロで相手と話し合う状態にはしたくないため、極力連絡は控えていたのだが、ここまで情報が無いのだったらもはや当の本人に聞くしかあるまい。
早速、連絡用SNSを起動する。
『小山さん、例の話で相談があるんだけどちょっといい?』
俺はスマホを放り投げる。
prrrrr
物の数秒足らずで返信が帰って来た。
「返信はや…」
恐る恐るトーク画面を開いてみると、やはり小山さんからの返信であった。
『私も連絡を取りたいと思っていたところでした。』
『マジか!笑笑ちょっとコンセプトとかお金の件で相談なんだけど今時間ある?』
『はい、通話でもよろしいですか?』
マジか!女子から通話!
なんとなくただ動画配信サイトで配信をすることだけを考えてきたが、『カップル』系を目指すってなるとそういう事も気軽にできるのか!
俺は少しワクワクしながら待っているとすぐに小山さんから通話がかかってきた。
『もしもし…小山です、その…コンセプトとか、多分初期費用とかで困ってますよね…それについてお話なんですけど』
おお、渡りに船とはこのことだ。
彼女は言葉を続ける。
『その…初期費用は、心配されなくて結構です。私、もう一台配信機材ありますから、その、アプリケーションだけは新しく買ってもらう事になりますけど…絵もこちらで用意してますし…』
『え…マジ?』
俺はその言葉に絶句した。
素人概算で四十万、どんなに安くても十万前後、しかも機材というからにそれ相応のものなのだろう。さすがにそこまでしてもらうのは気が引ける
『そんな高いもの貰えないよ、何より今は安い機材…というか無料でも始めれるらしいじゃん?そっち使うよ?余ってるんだったら中古で売りに出せばいいし。
何より初期費用プラスになるんだったら、それでよくね?』
『いえ、わざわざ、つ…付き合ってもらってますし、これでも少し足りないくらいです…それにむ…無料のアプリもありますけど、あれコミュニティが完結してるから私とコラボ…一緒にできません。』
その話が本当だとすると俺は小山さんから数十万の機材をもらい受けるか、もしくは本当に最低限の物を買うしかなくなった。
イヤイヤ、どんだけ負い目あるんだよ。
数十万の贈り物なんてもらっても持て余すわ。絶対。
『そっか…どのみちお金はかかるのか…てか、大丈夫なの?結局その配信セット二台分買うってなるとすっごいお金かかってるんじゃないの?』
『そこらへんは…私、お金余ってますので…』
そう言って電話越しにもわかるくらい苦笑した。
『そっか、じゃあ甘えさせてもらおうかな…てか大丈夫?初期費用そんなかかってるんじゃ、ハードル高すぎるんじゃない?』
というかこれは趣味の範囲で済ませるにはお金がかかりすぎる、それに全ての費用を相手にたかるのは…
『わ…私実は昔というか、ちょっと前までそこそこのVでして…そのリスナーが戻ってくれれば…』
『本当!?名前なに?今すぐ調べるから』
『それは甘はr──ってわあああ!やめてください!やめてください!何聞いてるんですか、死ぬほど恥ずかしいじゃないですか!』
それまでおどおどしてた彼女と打って変わって、突然奇声を発し全力で妨害してきた。
『ごめんごめん、というかどのみち小山さんの事知ることになるだろうし、誰かの配信参考にしたいところだったし、今でよくない?』
『め…目の前で見られるのは、耐えられません…!』
『小山さんがそういうならそうするけど…』
あと、─
そう言って彼女は言葉を振り絞る。
『み…美香で、いいです…小山って言われるの…ちょっと、くすぐったくて…』
『わかった、美香』
『ひょあ!え、え…今』
うわ!びっくりした!自分で言えって言ったのに…まあ、少し悪ノリが過ぎたことは認めねばならない。
『ごめんごめん流石になれなれしかったね…』
『そういう事ではなく…!わかりました、それじゃあ、後でおうちの住所を送ってくもらえますか?その住所に機材お送りしますので…
おやすみなさい!しゅ…駿君!』
そう言って俺が何を言う間もなく彼女は電話を切った。
それして何よりも、これか…
「おもしれ―女…」
先ほど調べていた時に出てきた単語、女性のブイチューバ―のあだ名みたいなものだろう。
しかしこれまで状況が噛み合ってるのもなかなかない。
俺は一人布団の上で笑いを堪えていた。
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