第7話 帰り道も安心ならない残念美少女

「高校生が外出先で夜を明かすってのは、割合に面倒らしいな」

「いまさら宿を探すのもね」

「俺たち未成年だけで部屋の予約も取れないもんな」


 ふだんは子どもの安全を守るためのルール。それに縛られ、いまこうして面倒な思いをしなくちゃならないってのは困ったものだ。


「もはや、ルールのなかで解決するのは無理じゃないかな」

「電車の再開を待つか?」

「うーん。見るからに運行再開の余地はなさそうだけど」


 真衣さんのいうとおりだった。運行状況について更新されることはない。徐々に近づいていく終電。いま再開したとして、遅延に次ぐ遅延が発生し、無事に最寄り駅までいける保証はなかった。


 帰りのルートが複数あるならよかったが、迂回先すらない。行きに使ったところがアウトなら、だめなのだ。


「シラを切って、カラオケオールと洒落込むか」

「大丈夫?」

「押し通す他ないだろう」

「亜依夢くんって、意外と悪い子なんだね」

「背に腹は変えられない。そういう話だよ」


 チェーン店はやめておき、駅近のところでも個人経営らしきところを選んだ。こういっちゃなんだが、融通が効きそうという判断だった。


 学生証以外の身分証を提示。残念ながら、我々が未成年であることは発覚してしまった。


 高校生ふたりを深夜のカラオケ店に置くことはできない、と一蹴されてしまった。


 それでも諦めきれなかった俺は。おじさん、というよりおじいさん寄りの店主に事情を話した。隣県に行かざるをえなかったこと、終電を失い野宿しかけていることなど。


 言い訳を並べても、無理なものは無理と追い返されるに違いないだろう……。


 と、思いきや。


「若いうちは、後先見えず失敗することもあるものだ。失敗しても、チャンスが与えられないと、かわいそうってもんだ」


 おじさんは、俺の手にそっと札束を握らせた。


「タクシー代。おじさんの奢りだよ」

「いや、どんなかたちでもいずれ……」

「いいんだ。人からの誠意は、受け取っておくものなんだ。この店のオーナーという立場ではなく、私人としての意見だがね。ま、いずれここに来る機会があったら、そのときは精一杯、歌ってくれ」


 俺たちは、ひたすらに感謝するしかなかった。


 もらった額と、俺たちのいまの手持ちを合わせると、どうにか自宅付近までタクシーでいけなくもなかった。それだけの大金だった。


「思いがけない出会いってのも、あるんだな」

「不運続きで、ようやく幸運の方に上向いてきたのかな」

「ああ、きっとそうだろうよ」


 タクシーに乗車するまでやや時間はかかったものの、無事に隣県からの脱出に成功しそうだという実感を得られた。


 突然の運休とあって、やはりタクシー乗り場は混み合っていた。配送料がかかってもやむなし、と配送アプリで呼んだおかげで、長時間待つことは避けられた。


「うわぁ、ほんっと疲れた」


 俺の左に座っている真衣さんは、腑抜けた声でこぼした。


 運転手がこちらの会話に干渉しないのをいいことに、かなり楽な感じで話している。


「欲張って二郎にしたせいでバチが当たったかな」

「食べ物のせいにしたら終わりだよ? 運休なんて予想外なんだし、もはやこれはq運命の成り行きってやつだよ」

「人生結局、なるようにしかならないもんな」


 とりあえず、見ず知らずのカラオケ店のオーナー、そのあまりにも寛大な措置に救われたわけで。運の神も、俺たちを見限っていたわけではなかったらしい。

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