第2話 素直になったらご褒美あげる♡

『お姉ちゃん♡』


 コハルが私を呼んでいる。


『大好き♡ 愛してる♡』


 甘美な言葉を囁きながら、私の手を掴む。


『一緒に堕ちよ?』


そして……そのたわわに実った胸に、私の手を─────


「───────……っ!!!!?」

「あ♡ おはよう、お姉ちゃん」


 右手にある柔らかい感触から素早く手をひっこめる。どうやらただの夢ではなく、コハルによって演出された悪夢(?)だったみたいだ。

 焦って自分の状況を確認する。服は着ていて、乱れた様子も見受けられない。私の貞操は未だ無事……そう解釈して良いはず。


「ふふっ。焦っちゃって可愛い♡」

「なんで……私の部屋に……」


 私に馬乗りになっているコハルをキッと睨む。下腹部にある臀部のほどよい圧迫感と熱量が、私に変な影響を与えぬ内に、彼女を部屋から追い出さねばならない。

 だと言うのに、コハルは顔色ひとつ変えず、私の渾身の睨みを嘲笑うように前後に腰を振る。私にはないモノが、あたかもそこにあるように。


「……何を……」

「んー……、誘惑?」


 そういって身体を倒し、私に抱きついてくるコハル。私たちの胸が衝突し、お互いの形を変化させあっている。これは非常に不味い。お姉ちゃんちょっと興奮しちゃう……。


「お姉ちゃんにもしアレがあったら……反応がもっとわかりやすいんだけどなぁ」

「……変なこと言わないで」


 グリグリと私に臀部を押し付けているコハルの息が、私の耳元を彷徨う。あたたかく、心地の良い音色を奏でながら、ゆっくりと私の鼓膜を訪れるのだ。思わず、腰が少し浮いてしまい、慌ててコハルを引き剥がす。


「やーん♡ 積極的♡」

「……」


 私はそのまま起き上がった。コハルに聞いても無駄だから、自分で状況を確認した方が早い。部屋を見回せば、扉が開いている。近づくと、2センチ弱の金属片と、何かしらの工具。金属のほうは、おそらくデッドボルトだ。工具で切って扉を開けたのだろう。コハルの行動力が、お姉ちゃんは怖いです。


「ボンドでくっつくから安心してね」


 違う、そうじゃない。


「そんなことよりさ、お姉ちゃん……」


 いつの間にか私の後ろに忍び寄っていたコハルが、私を背後から抱き締める。背中にあたるその柔らかい感触と、うなじに掛かる熱っぽい息に、私はゴクリと生唾を飲んだ。


「今日は休日なんだからさ、もっとベッドでイチャイチャしよ?」


 そう言って、コハルは私をベッドまで引っ張る。理性を保つことに必死な私は、その手をはね除けることができなかった。そして、彼女に優しくベッドへと押し倒される。


「ふふっ……抵抗しないんだ?」


 なんと言うことだ。振り出しに戻ってしまった。しかも、今度は手をしっかり握られて、ベッドに押し付けられている。生半可な抵抗じゃ抜け出せないし、無理にでも脱出を試みれば、コハルに怪我を負わせることになるかもしれない。詰んでしまった。


「期待……してるんでしょ」

「……してない」


 嘘だ。本当は、コハルにこのまま襲われることを期待してる。その証拠に私の鼓動は早くなっているし、全身が火照って、少し汗をかき始めてもいる。妹に欲情してしまうなんて、こんなんじゃお姉ちゃん失格だ。

 コハルは、どうして私なんかを好きになってくれているのだろうか。一年も拒否し続けて、冷たくあしらっている私なんかを。辞めてと言っても誘惑してくるし、それに見合う色気を十分備えてるし。毎日理性を削られる私の身にもなって欲しいものだ。好きな人からのアプローチは嬉しいなんて言ったが、あれは強がり。ぶっちゃけるとここは生き地獄です。

 だから、早く退いてもらわないと。じゃないと私は、妹を襲っちゃう変態でシスコンな最低お姉ちゃんに成り下がってしまう。

 そんな葛藤が脳を渦巻くなか、コハルは、私に決定的な一言を突きつける。


「お父さんとお母さんさ、二人で仲良く出掛けてったよ」

「……?」


 はじめは、この発言の意図や、いきなり両親が話題に出てきたことが謎だった。だからここまでは、そういえば昨日そんなことを両親が言っていたような……なんてことを呑気に考えてしまった。油断してしまったのだ。


「泊まりがけになるって言ってたの」


 コハルの発言……もとい、雲行きが怪しくなってきた。彼女の瞳は獲物を見るモノへと変わり、その舌は獲物の味を想像するように舌なめずりをする。頬も赤く染まっているし、体温も上がってきていた。これは……興奮して……いる?


「だからさ……今日はずっと、二人っきりだね♡」

「あ……」


 ここまで来れば、私にもこの状況の不味さがわかる。私の理性がどうこうとか言う話じゃない。コハルのほうの理性が大丈夫じゃなかった。


「お姉ちゃんのこと頂いちゃってもいいかな……!? いいよね♡」

「すとっぷ!! まだ何も言ってない……!」

「あいたっ……!?」


 そのままキスをしようとするコハルに、軽く頭突きをかます。虫も殺せぬような弱々しい一撃だが、少しは効いたようだ。私の手を握っていた手で、コハルが顔をさすっている。お陰で私の両手はがら空き。すぐに脱出を試みて、私は晴れて自由の身に──────


 ───────……ガチャン!


 ならなかった。


「いたっ……!?」


 手首の位置に、圧迫されるような違和感。そこを見れば、私の両手は手錠によってベッドに拘束されていた。金属特有の光をギラつかせ、痛々しく私の手を縛るそれは、私が動くことを良しとしない。いくら外そうとしても、私なんかの力じゃ到底不可能だ。

 そうこうしている内に、コハルが復活してしまった。再び押さえつけられ、絶体絶命な私。


「コハルちゃんマジ~ック♡ さっき気づかれないようにつけちゃってました~♡ お姉ちゃんが逃げようとするのはわかってたからね」

「……外して」

「ダメだよ? お姉ちゃんはこれから私とイケナイことするんだから」


 そう言って、私の腹部をツー……っと指でなぞるコハル。私も知らず知らず興奮しているのか、それだけで言いようもない快感が全身を駆け巡る。しかも私の反応を楽しみながら、何度も往復するもんだから、たまったもではない。30秒もされれば、私は息も絶え絶えになってぐったりしていた。


「んぁ……ぅぇ……ふぇあぁ……」

「ほんとお姉ちゃんって敏感だよね。もしかしてもうイッてたりする?」

「そんなわっ、け……あ"ぁえ"……!?」


 いきなり下腹部を指でぎゅっと押し込まれ、頭が爆発したように弾ける。目の前がチカチカとなり、すぐ近くのコハルにすら焦点が合わない。今私はナニをされたんだ? もう考えることもままならない。


「あ"あ"ぁあ……!? やめっ……でえ"」


 今度は、押し込みながらゆっくり下腹部を撫でられる。それがどうしようもなく苦しくて、気持ち良くて。奥底から来る熱が、コハルの手で塗りたくられるようにお腹の辺りがジンジンとうずき出す。股の間が温かく湿ってきた。


「お姉ちゃんったら気持ち良さそう♡ 私もっと頑張るからねっ!」

「だ……めぇえ"え"……!?」


 だんだんと速く力強く、そして激しくなっていくコハルの手に、私の抗議など聞き受けられはしなかった。不自由なために動いても快感を外に逃がすことすらままならない。私には、コハルから与えられるありのままの愛を享受するしか選択肢がない。

 一回、二回、三回……。私の腰が跳ねたのは、もう何度目かも分からない。コハルも私もびっしょり汗をかいていて、そのせいで張り付いた服から、ピンッとたった私の胸の突起がよく見える。それに、目も半開きで虚ろとしているし、口からはだらしなく涎が垂れてしまっていた。


「次は何して欲しいかなお姉ちゃん。お姉ちゃんが気持ち良くなること、もっといっぱいしよう?」

「おね……がい。とまっ……て」


 蚊の鳴くような弱々しい声で懇願しても、怪訝そうな顔で私を見るだけのコハル。水を差されたのが不満だったようで、ちょっと眉間にシワがよっている。


「ねぇお姉ちゃん……。いい加減素直になりなよ。私と一緒に気持ちよくなろう? もしお姉ちゃんが素直になってくれたらさ、ご褒美でいっぱい気持ちよくしてあげるから」


 子犬のようにチロチロと私の首筋を舐めて、ちゅーっと吸って、はむはむと甘噛みして、それだけで身体が震えちゃう私はもう末期だ。病院行ったほうがいいかな。

 それとも、いっそ……このままコハルに堕ちるか? いや、それだけは絶対にダメだ。今だけは絶対に。だから、屈するわけにはいかないんだ。ふんばれ私。


「コ……ハル……、毎日……してあげるから……もう許して……」

「なに? お姉ちゃん。よく聞こえなかったんだけど」


 さんざん橋声をあげさせられて、声も枯れそうになってるけど。早く言わないとまたあの生き地獄が始まってしまう。

 心のなかで自分を鼓舞し、私は声を振り絞って、もう一度その言葉を口にした。


「毎日キスしてあげるから……もう許して……」

「……!!!」


 私の提案を聞いた瞬間、コハルは嬉しそうに目を見開いて、ゴキュっと息をのんだ。その顔には期待、情欲、好意……様々な色があって、それぞれの間で葛藤しているようだ。

 しばらく考え込んで、ようやく結論を出したらしいコハルは、私の手錠を外した。おそらく了承と言うことなんだろう。わかってくれたようでなによりだ。


「キスは……唇ってことでいいんだよね?」

「あ……えっと、うん……」


 そこまで深く考えてなかったけど、このままおっ始められるよりは断然マシなため、これは甘んじて受け入れよう。いつか後悔する日が来るかも……。いや、コハルと合法的にキスできるって前向きに考えよう。うん、そうしよう。


「回数も……言ってなかったよね」

「え……? それは───んむぅっ!?」


 私が言い終わるよりも先に、コハルは強引に私の唇を奪った。柔らかくてあたたかい。とっても気持ちいいコハルとのキス。普通の時でもそう思ってしまうんだから、さっきみたいに色々されながらだとどうなってしまうのだろう。

 余計なことを考えたせいでまた身体がうずいてしまう。それと同時にコハルから攻め立てるように唇を貪られるんだから、また私の身体は震えだしてしまう。これダメだ……癖になっちゃうっ……。


「ぷはっ……はぁ、はあ……。お姉ちゃんっ……!」


 離したと思えば、すぐにまたキス。これを何度も繰り返されて、幸せで頭が溶けそうだ。やがて私の唇をノックする舌を受け入れてあげれば、口内を優しく、それでいて激しく蹂躙される。

 背中がゾワゾワして、ついでに頭ぼーっとしてきた。これが……好きな人とのキス。こんなに幸せなんだ……。


「んっ……じゅる、れろ……んむちゅ……はぁむ♡」

「んん!? んあぁ……あぁむ……れろ……」


 結局この後、一時間ほどキスをされてから二人で一緒にお風呂に入った。約束通り何もされなかったが、その代わりとでも言わんばかりに何度もキスをせがまれて、その日はもうずっとコハルとキスをしまくっていた。

 これから、人目を盗んではコハルがキスしてくることになるんだが、それはまた別の話。

 ちなみに、ナニがとは言わないが、コハルとのキスが気持ちよすぎるせいで、キスだけでいけるようになってしまった。コハル……淫らなお姉ちゃんでごめんなさい。



 


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