第3話 私の好きをわからせてあげる♡
「お姉ちゃーん! 早く早く~」
妹であるコハルに襲われかけてかけた翌日。コハルに手を引かれながら、私は近所の大型ショッピングモールへと足を運んでいた。
昨日、二人でお風呂に入っている時に誘われたのだ。湯船の中、リップ音を響かせながらたくさんキスで頭をとろとろに溶かされて……とどめに上目遣いまで食らってしまったら、シスコンの私には断る術など無かった。
しかしながら、昨日とは打って変わって、コハルがずいぶんと大人しい。いつもの彼女なら、人気の無いところ目ざとく見つけては、私を連れ込みそうなものなのに。かと言って、いっさい私に何もしてこない訳ではなく。引っ張られている手を、いつの間にか恋人繋ぎにして、くすぐるような手付きでぎゅっぎゅっと緩急をつけながら握ってくる。コハルから強く握りしめられる度に、昨日のことがフラッシュバックして、ちょっとイケナイ気分になったりするんだが、これは口にしたらダメだ。
「お姉ちゃん……今日の私、どう……?」
「……?」
握っているものとは反対の手で、きゅっと私の服を掴み、伏し目がちに尋ねてくるコハル。その少し遠回りな質問に、やはりと言うか、違和感を覚えてしまう。だっていつものコハルなら、「お姉ちゃん見て! 私可愛いよね?」ってメンヘラに片足突っ込んでそうなくらい、強引に私から「可愛い」ってワードを引っ張り出すのに、今日ときたらこれだ。なんといういじらしさと奥ゆかしさだろうか、やはり私の妹は可愛い(再認識)。
とは言え、それなりに心配もしている。言うなれば、ハイパー元気がちょっとしなってる? くらいになっている感じだ。もしかしたら体調不良かもしれないし、ここは一つ、お姉ちゃんとして気が利かせてやろうと思う。
「コハル……体調悪かったりする……?」
「……は」
予想外って感じの顔で、ポカーンと呆けるコハル。あれ、読み外したかな。
「なんで?」
「……いつもと違って、なんだか積極性に欠けてるから……かな? もし気分が悪いなら、無理しなくて大丈夫だよ」
そう言って、優しく頭を撫でてやれば、コハルは俯いて、ふるふると震えだした。やはり風邪か何かのようで、すごく寒いのだろう。春先とはいえ、ショッピングモールでは空調設備がしっかり機能している。肌寒い程度でも、風邪を悪化させるのには十分だ。
「……体調なんて悪くないよ」
少し怒ったような声で、ボソリとコハルが呟く。じゃあさっき身体が震えていたのは何だったのか、そう問おうとして口を開きかけたところで、コハルに強く引っ張られる。先ほどまでと違い、痛いくらいに強く手を握られて、じんじんと感覚が麻痺してくる。
さすがに抗議の声を挙げようと思ったのだが、その背中からはなんとも言えない迫力が放たれていて、チキンの私には声をかけることができなかった。
「お姉ちゃん……」
「……コハル?」
しばらく引っ張られて、連れてこられたのはとあるトイレの個室。本来の目的とは違う用途でここを訪れたことは、わざわざ聞かなくてもわかる。私を強引に便座の上に座らせたコハルは、後ろ手に個室の鍵を閉めた。ガチャっと鳴った音が静寂の中に溶けていって、そんな中で私を見下ろすコハルが、少しだけ怖い。
ふらふらと私に近寄ってきたコハルが、私の肩を掴む。爪が食い込むくらいに力を込められて、少しだけ顔が歪んだ。
「……っ」
「お姉ちゃんは……緊張しないの?」
「……?」
訳のわからないコハルの問い掛けに、苦痛を孕んだままの表情で首を傾げる。それが癪に触ったのか、また少し力が強まった。
「私は緊張してるよ。久々に……一年ぶりにお姉ちゃんとお出掛けできてさ」
「……」
コハルが私の膝の上に腰をおろす。顔が近くなって、少しだけ恥ずかしい。その視線から逃れるように、私は顔をそらした。
「私ちょっと怒ってるよ。無神経なお姉ちゃんの発言に」
「……ごめ……むぐっ!?」
反射的に謝ろうとした私の口に、いきなりコハルが指を突っ込んできた。ちょっと塩気があって、なんとも言えない味。
「お……ぁぅ?」
「……」
思ったように言葉を紡げないもどかしさと、舌の上で踊るコハルの指の心地よさで、頭がちょっとふわふわしてくる。私が止めるまでもなく、しばらく私の舌を弄んだコハルの指は、以外にも呆気なく引き抜かれた。
その拍子に、私の口からいくらか涎がこぼれでて、コハルはそれを掬ってくれたかと思えば、私の唾液のたっぷりついた自分の指を舐めたくる。その行動がどうにも妖艶で、中学生とは思えない色香をこれでもかと放っている。……やだ、うちのコハルったらアダルティ……。
「なんで謝ろうとしたの? どうせ、私が何に怒ってるかも分かってない癖にさ」
ピリッとした空気が私を巻き込んで、コハルの周りを取り囲む。どうやら、私が想定している3倍くらいはお冠のご様子。それも、謝らせてくれないってことは相当キテると思われます。
そんなコハルに対して、私は一体どうすればいいのか。頭の中で様々な憶測が飛び交うけれど、これと言って名案は浮かばない。むしろ、そういった態度がコハルの怒りを助長されるのかも。でも謝らせてくれないし……。
「……やっぱり分からないよね。うん、でも良いよ。こればっかりは、ちょっと私が我が儘なだけだから」
私をおいて、コハルはなにやら勝手に話を進めている。せめて怒っている理由が知りたいな、お姉ちゃんは。
「でもさ、私の好きって気持ちを、いつまでも分からないふりされるのは、ちょっと面白くない」
「……?」
コハルは何を言っているんだ? コハルが私を好いてるなんて、ここ一年で(昨日は特に)嫌でも分からされてきた。だからこそ堕ちないように必死こいて理性に呼び掛けて、情けなくても頑張って一戦は保ってるのに。そんな私の気も知らないで、一方的に好意を訴えてきてるのは誰なんだ。
コハルの発言にちょっとむっとしてしまう私。こればかりは反論させて頂きたいと、立ち上がろうとした瞬間。
「ふー……」
「っ…………!?!?!?」
耳元でコハルに息を吹き掛けられて、ビックリした猫みたいに身体を震わせた私は、力なくコハルの胸に倒れ込む。そうしたら、コハルの胸の柔らかさとか、香水すらはね除けるコハル本来のめっちゃ良い匂いとかが、ダイレクトに私の脳を刺激してきて、ゾクゾクと背中に何かが伝っていく。
「ぁ……ぅあ」
「だからね……お姉ちゃん」
もうオーバーヒートしていると言っても過言ではない私の脳に、コハルの囁きが追い討ちを仕掛けてくる。それにも肩を震わせて、声を我慢するようにコハルの服を掴むしかない。そんな私の背中を撫でながら、コハルは残酷にも、地獄はこれからであると告げる。
「私……お姉ちゃんにわからせてあげる」
「ふぁぁぁ……」
「私がどれだけお姉ちゃんを好きなのかを……ね。ふぅー……」
「ふえぁ……!? ぁぅあ……」
そこからはもう、前述の通り地獄だった。やめてと言ってもコハルは止まってくれず、ひたすら私の耳を苛めてくる。抵抗しなきゃいけないのは分かってるのに、力が抜けて、動くことすらままならない。そんな状態で力強く抱き締められたら、愛されてることが身体全部に伝わってきて、嫌でも腰が跳ねてしまう。
「きにょう……やく、そく……した、にょにぃ……あっ!? うぅふあぁ……!?」
「うん……それに関してはごめんなさい。でも我慢できないよ、私。それに、口しか使ってないから……実質キスだよね?」
「そんあ……ことぉ……なっ……いぃ」
ちゅっちゅっとリップ音をたてて、私の耳にキスをおとしてくるコハル。そのもちもちの唇とか、鼓膜を震わせる妖艶な水音とか。それらが私の興奮を加速させて、身体をより敏感にしていく。その状態で耳を攻められて果てされられれば、また敏感に……という無限ループが完成してしまった。
「むちゅ……ちゅっ……ぺろっ」
「ああああぁっあ!?」
コハルは、キスをおとすだけでは飽き足らず、とうとう舌を使いだす。しかも、先っちょで溝を擦るような舐め方が、焦らすような……それでいてしっかりと快感を押し付けるような、なんとも言えないもので、私の腰は強制的に何度も跳ね上がる。
ここが女子トイレであるとか、公共の場だとか、そういったことはスルリと頭から抜け落ちて、コハルが与えてくれる快楽に合わせてただ声を出すのみ。まるでそういう人形みたいになってしまった私の目からは、いつの間にか数滴の涙が溢れていた。
「れろ……れろ……じゅるるるぅ……!」
「かっ、はぁっ……!? あ、え……?」
いきなりの衝撃に、一瞬だけ意識が飛んだ。花火が目の前で弾けたみたいに視界がチカチカして、脳がショートする。目の前がスローモーションみたく見えて、ゆっくりと流し込まれる快感と、それを裏付ける水音だけが、私の脳内を支配していた。
「あぁむ……はむ。えぇろぉ……れろ……じゅるるるぅぅ……ちゅぅぅぅー……♡」
「ふっ……あ!? あぁあぁぁあぅぁぉお……えぁあ……ふあぁ……?」
いつの間にやら侵入したらしいコハルの舌が、内側から私の耳を蹂躙する。素早く出し入れしたり、優しく擦り挙げたり、激しく吸い付いたり、緩やかに奥を舐め回したり。これを左右交互でやられて、もう私は限界だった。脚はガクガク震えてるし、何もされなくても腰は跳ね続けてる。時間感覚も無くなって、いったいどれだけこうしてるのかも、これからどれだけ続くかもわからない。半開きのだらしない目じゃ、コハルの表情だって読み取れやしない。
「お姉ちゃん……好きだよ……愛してる」
「こ……はぁ……るぅ」
突如、愛を囁かれたと思えば、今までに無いくらい強く抱き締められて、跳ねていた私の腰は押さえつけられる。そのせいで、溢れていた快感が逃げ場を失い、身体中を駆け巡る。
「っ~~~……!?!?!?」
そんな状態で、コハルは私に顔を近づけてきて、その綺麗な唇を、私のものと重ね合わせる。しばらく外を貪られれば、今度は舌を入れられて、中をこれでもかと犯された。私の舌とも絡み合い、唾液を交換し合って、お互いを必死に求め合う。そんな深い深い愛の籠った、乱雑な優しいキス。
そんなことをされて、今の私がただですむはずが無い。跳ねられない腰は、やがて快感を激しく押し返し……それはついに脳へと達する。
「っ~~~~~~~……!!!!!」
逃げ場の無くなった快感と、コハルにキスされる多幸感が、一斉に脳へと注ぎ込まれて、私の意識はそこで完全にショートした。
……
…………
………………
「お姉ちゃん……? 起きた?」
「こはる……?」
どれくらい眠っていたか。気がつけば、私はコハルに頭を撫でられながら、抱き締められていた。コハルの雰囲気は、先までのピリピリしたものではなく、いつも通りに戻っている。そのことに安心し、私も優しくコハル抱き返した。
「んっ……お姉ちゃん……あったかい」
「……コハルも」
しばらく抱き合っていたが、頭が冴えてくると、まるで事後みたいな空気感が、恥ずかしくて耐えられなくなってきた。コハルも同じだったのか、どちらからとも言わずに離れて、トイレの個室から出た。
行為(そういうとアレだけど、他の表現が思い浮かばない)の最中は知らないけど、幸い今は他の利用客もいない。奇異の目が、コハルに向けられることが無くて良かった。
「その、お姉ちゃん……さっきはごめんなさい。暴走しちゃって……」
申し訳なさそうに謝るコハルを見たら、怒るに怒れない。これがシスコンの弱いところである。だから、謝罪を受け入れるという意味も込めて、優しく頭を撫でてやれば、コハルは心地良さそうに微笑んだ。
「そういえば……結局どうして怒ってたいたの?」
手を洗っている最中、ふと思い出して聞いてみた。怒っていない今なら、答えてくれるだろうと思ったからだ。ただ、いつまで待っても答えは返って来ず、私は視線をコハルの方に向ける。
「……そんなことより、買い物行こ」
「……?」
何故か顔が真っ赤になっているコハルが、はぶらかすように話題を変える。不自然だし違和感しかないけど、コハルが話したくないなら、それでもいい。ただ、私の至らぬ点は謝罪したかったんだけどね。
「お姉ちゃん、手」
「……あ」
コハルが私の方に手を差し出してくると、私は言いそびれていたことがあるのを思い出した。トイレに入る前、コハルが私に問いかけてきたことの答え。
「コハル、可愛いよ」
「……!!!」
結局、コハルがどうして怒ってたのかはわからなかったが、なんだか嬉しそうな顔してるし、まあ良いか。
「えへへ、ありがとっ! お姉ちゃん!」
屈託なく笑うコハルを見て、私の頬も緩んでいくのを感じる。
あぁ……幸せだな───なんて、似合いもしないこと思いながら、私はコハルと仲良く歩き出した。
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