第8話「私の生徒会に入ってください」


___それは、中学生活の二年目が始まってすぐの事。


いつものように学校へ向かう、千場須さんの運転する車の中。

綾乃様はどこか意を決したような顔で、私達双子に語り掛けた。


「右子、左子・・・お願いしたい事があるんだけど」

「・・・はい?」

「私と一緒に生徒会選に出て欲しいの」


ああ、そういえば言ってたね、生徒会長になりたいって。

きっと本物の方の綾乃グレースから命じられたんだろうな・・・私の学園デビューの時に箔がつくように、みたいな・・・うわやりそう。


・・・だとすると、私達も拒否権ないのでは?

そうか、自発的にって形にしたいんだ・・・汚い大人がよくやるやつ。

うぅ・・・悔しいけれど、ここは逆らわない方が良いか・・・こっちの綾乃様もかわいそうだしね。


「私は構いませんけど・・・左子はどう?」

「・・・姉さんが一緒なら」


うん、物わかりの良い妹でお姉ちゃん助かるよ。

でも無理はしなくていいからね?

この三人だと私が副会長かな・・・左子には責任のないポジションにいてもらおう。


「それで、具体的には何をすればいいんです?」

「ええ、それなんだけれど・・・」



その日の放課後、私達は生徒会選挙説明会というものに参加する事になった。

その名の通り、希望者に生徒会選挙のルールとかを教えてくれる説明会らしい。

私たち以外にも結構な人数の参加者がいる・・・この学校が私立だからか、そういう意識が高いんだろうね。


まずはじめに、選挙管理委員の生徒によって説明書のようなものが配られた。

それに軽く目を通した綾乃様が一瞬固まった・・・あれ、この反応には見覚えが・・・何だ?何が問題なんだ?

これは説明書の端から端まで確認しなければならない。


「まず1ページ目、禁止行為についてですが・・・」


私が食い入るように読み込む中、選挙管理委員も順を追って説明してくれる。

賄賂の類や学校指定の場所以外での選挙活動の禁止・・・この辺は常識の範囲内だね、言われなくてもわかるというか。


「選挙ポスターについてですが・・・」


大きさの指定、貼られる場所や枚数は決まってるらしい。

それ以外で勝手に張るのも禁止っと・・・ポスターを作るのはちょっと大変かも知れない。


「5月の頭に体育館で選挙演説を行って頂きます、持ち時間は各候補一人5分ずつです」


5分・・・意外と短い。

でも立候補者数が多そうだから、これくらいが良いのかな。

逆に長々と演説する必要がないのは楽かもしれない。

綾乃様が固まった理由はこれかな・・・あがり症だっけ?・・・別にそんな事なかった気がするんだけど。


「以上です、立候補者は最後のページに付いている申請書を期日までに提出してください」


最後にそう締めくくって、説明会は終わった。

見た所、怪しいのはポスターか演説か・・・でもなんとかなるような気はする。

所詮中学の生徒会なんて、みんな適当に投票するからね。

普通にしてても人目を惹く綾乃様のルックスはだいぶ有利なんじゃないだろうか。


今の綾乃様は髪がだいぶ伸びて、腰くらいまである長さの金髪はまるでゲーム本編の綾乃グレースのよう。

加えて大人びた顔立ちと青い瞳、モデルと言っても通じそうなすらりとした体型も・・・あれ。

・・・よく考えると、だいぶ似てるぞ、私と左子くらい似てる・・・いやいやまさかそんな・・・


「ねぇ右子、左子・・・どうしよう・・・」


あ、表情が全然違った。

そうだよね、あの女はこんな不安そうな顔はしない。

いつも自信満々って顔して、庶民風情がこの私にって葵ちゃんの邪魔をしてくるんだよ・・・って綾乃様?


「こ、これなんだけど・・・」


そう言って綾乃様が見せたのは、最後のページの申請書。

立候補者の名前を書く欄があって、公約とか意気込みみたいなのを書く欄があって・・・あ、担任のサインも要るんだ。

???・・・どこに問題があるんだろう?


「綾乃様・・・これに何か問題が?」


考えてもわからないから本人に聞いてみることにした。

すると、綾乃様は名前を書く欄を指差し・・・生徒会長の欄から下へ・・・

副会長・・・執行委員、執行委員、執行委員・・・執行委員ってなんだろう?3つも書く欄があるぞ。

さっきの説明書に書いてあるかな・・・どれどれ・・・


「人数が、あと二人、足りないの・・・」


あ、書記とか会計とかそういうののことか・・・って足りない?!


「これって・・・5人一組で立候補しろ・・・ってこと?」


現在、二階堂綾乃グレース候補に付いているのは、私達双子・・・だけ。

正直3人もいれば充分だと思ってた。

漫画なんかで出てくる生徒会って、そんな人数いた記憶ないぞ?


「や、友達に頼めば、二人くらいは・・・」

「右子と左子が、その二人なんだけど・・・」

「・・・」



そういえば、小学校の時からずっとこの3人でいる気がする。

謎の権力によって班も常に一緒だし、席もこの3人で固まってる。

ひょっとして・・・3人とも他の友達がいない?


「右子・・・」

「姉さん・・・」


その、私にすがるような目が全てを物語っている。

これは間違いない、私達は3人とも・・・友達がいない。




「ま、まだ諦めるのは早いわ!」

「右子、何か良い案が?」

「綾乃様の魅力なら、男子生徒の一人や二人・・・」

「・・・そんな人・・・入れるの?」


左子の冷静なツッコミ。

私の脳内で綾乃様に言い寄って来るチャラ男のイメージが生成された。



もわわわん・・・



「お願いします、私の生徒会に入ってください」

「入っても良いけどさぁ・・・綾乃ちゃん、代わりに俺らのお願いも聞いてくれる?」

「そうそう、聞いてくれたら俺ら入っちゃうよ、入っちゃう・・・ぐへへ」

「え、ちょっ何を・・・」

「わかってるくせにぃ~」

「俺ら入っちゃうよ、入っちゃう」

「あ~れ~」



・・・もわわわん




「・・・うん無理」


ないわ~、チャラ男はないわ~。

バランスを考えて男子も入れるべきなんだろうけど・・・綾乃様目当てによって来るような男とか絶対無理。

我ながら酷い案だった、止めてくれてありがとう左子。


「で、でも他に方法がないなら、私はそれで・・・」

「ダメです!ダメ!今何か考えるから・・・」


やっぱり女子だ、生徒会の性別が偏るのは不利だけれど、男子を入れるのは危ない。

でも友達がいない私達が誘えるような相手がいるのだろうか?

もうクラスの仲良しグループは出来上がっている、私達が今から踏み込むのは困難だ。

だいたい生徒会に立候補する意思がある生徒なんて、もう他の候補者になってるはずで・・・


と、そこへ一年生の集団が通り掛かった。

つい先日に入学式が終わったばかり、まだ制服を着慣れてない感じが初々しい・・・今はクラブ見学をしている所かな。

私もあんな頃が・・・二回あったね。


その集団から少し遅れて、眼鏡をかけた地味な感じの・・・所謂モブ顔の少女がとぼとぼと歩いている・・・部活とかする気ないんだろうな。

・・・そういえばゲームでは二年目から綾乃グレースの取り巻きが増えてたっけ、ちょうどあんな感じのモブ顔の・・・

そうだ一年生!入学したばかりの一年生ならまだ・・・


「綾乃様、一年生からやる気のある子を探しましょう!」


一年ならまだ仲良しグループは出来ていないはず・・・

それに相手は後輩という事で、同学年相手よりちょっと気が楽だ。

いざとなったら二階堂家の力を見せつけてでも!




・・・こうして、私達の生徒会メンバーへ迎えたのが、この二人。



一人目は、度のきつめな眼鏡をかけた三つ編みの女の子だ。


「一年C組、五味原 恵理子(ごみはら えりこ)です・・・どうぞゴミとお呼びください!」

「ご・・・五味原・・・さん?」

「いいえ私なんてゴミで良いんです!まさか二階堂家のお嬢様と同じ学校だったなんて!しかも直接お仕え出来るなんて・・・家族に自慢できます」

「そ・・・そうなの?」

「五味原さん、綾乃様がドン引きしてるんで・・・もっとこう、普通に接する事って出来ない?」

「申し訳ありません!綾乃様の存在は私ごときには眩しすぎて・・・つい」

「綾乃様はそういうの苦手なの!そんなだと辞めてもらうわよ?」

「は、はい!全力で努力します!右子先輩!左子先輩もどうぞよろしくお願いします!」

「だからそのノリがダメなんだってば!」



そう、彼女はあの時見掛けたモブ子・・・まさかこんな子だったなんて・・・

地味なのは見た目だけ、声はでかいしノリは体育会系というかなんというか・・・なんだかめんどくさそうなのを入れてしまった。

・・・他に入ってくれる子いなかったんだけどね。



もう一人は男子生徒。

ひょろりと細長い体型がなんとも頼りない、強風が吹いたら飛ばされそうだ。


「一年A組、木立 蔦也(こだち つたや)です、よろしくお願いします」


やっぱり女子だけでは選挙で不利になるだろうから男子を入れたんだけど・・・

彼は人畜無害そうなもやし男、ぶっちゃけ私より弱そう・・・これなら綾乃様に手を出すような事はないだろう。


正直すごく頼りないけど、人数さえ揃えばあとは何とかなるなる。

私達はこの五人で生徒会選挙を戦い抜くのだ・・・だいじょうぶかなぁ・・・


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