閑話 いつも二人の真ん中に

私の名前は二階堂綾乃グレース。

グレースというのは、英国人の祖母から頂いた名前だと伺っています。

海外ではこちらの名前の方が皆様呼びやすいようです。


私は二階堂家というこの国でも有数のお金持ちの家に生まれ、何不自由なく育ちました。

とてもお恥ずかしい話ですが、私はそんな自分の境遇を「ごく普通」だと思っておりました。

多少の差はあるものの、人々は皆自分と同じように生まれ育ったのだと思っていたのです。


そう、あの言葉を聞くまでは・・・



「うわぁああああああああああ!よりによって、いけ好かないお嬢様の付き人だなんて!」



当時まだ幼かった私はそれを理解するのに少し、時間が掛かりました。

たしか・・・分家の子供が私と同じ年で、友達になりに来てくれる・・・そんな風に聞かされていたかと思います。

それはいったいどんな子達だろう・・・と興味深々で待ち切れなかった私は、こっそり様子を伺う事にしたのです。



「これから私達奴隷のようにこき使われるのよ?!世間知らずの我儘お嬢様に!おはようからおやすみまで一日中一年中一生ずっと」


「そんなのやだよぅ・・・おうちに帰りたい・・・」



・・・それを理解した時。

私は自らの愚かさに居た堪れなくなりました。

それまではあんなにも楽しみにしていたのに・・・二人と顔を合わせるのが怖くてしょうがなかったです。

友達になってくれると言ったあの二人の言葉すら、本心では信じる事が出来ずにいたのです。

こんな私が本当にあの二人の友達になれるのか、あの二人にとっては強制された友達ではないのかと・・・




当家には長らく父に仕えている千場須という執事がおります。

彼もまた、かつて同じような強制を父から味わったのではないかと訊ねました。



「私の場合はお仕えした当初より相応のお給金がございましたので、少々事情が異なりますが・・・」



そう前置きして、千場須が語ってくれた事は、私に一つの指針を与えてくれたと思っています。



「一つ言えるとすれば、旦那様は尊敬すべき立派な御仁になられました。

 お嬢様には・・・寂しい思いをさせてしまっておりますが、旦那様のお仕事は多くの人々の幸せを支えております。

 私には、それが我が事のように誇らしいのです。

 故に・・・私は今、そんな旦那様にお仕え出来て、とても幸せを感じております」


「じゃあもしも、お父様が立派な人じゃなかったら?酷い人だったら?」


「そうですな・・・不幸な思いをしていたかも知れませぬな」




・・・私は、あの二人の主として相応しい存在でなければいけない。


お父様のように、あるいはそれ以上に立派な人物にならねばならない。


あの二人に不幸な思いなんて絶対にさせてはならない。



あの二人が当家に来て最初の誕生日に贈ったペンダント。

二人は今も身に着けてくれています。

それを見る度に、私は自分に問うのです。


二人が誇れるような存在に、私はなれているのかと・・・

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