第8話 迷子と侵入者

辺りはすっかりと暗くなってしまった。昼間は何も思わなかった森も、夜見ると不気味に感じる。


あちらこちらから、ガサガサと音が聞こえる。もし熊や恐ろしいモンスターが出たらどうしたらいいのか。言い知れない恐怖感を抱きながら、ひたすらに歩みを進めていると、ふと何かの音が聞こえた。


よく耳を澄ませると、水の音だった。


近くに川でもあるのだろうか。ずっと歩き回っていたせいで、ひどく喉が渇いている。足もそろそろ限界だったので、一休みするためにも音がする方に足を進める。


しばらくすると、思った通り大きな池と川が見えてきた。


流れる水はとても綺麗で、渇いた喉を潤そうと、水辺に近づいた。すると、川の向こう岸から何やら音がした。獣か何かかと警戒するも、それはどうやら人の声のようだった。


この森には、他にも人がいるのか?といぶかしく思うも、木や石ではなく、自分以外の人とようやく出会えた喜びが勝った。


段々と近づく声の主は、一人ではないようであった。何やら話し込んでいるらしく、会話が聞こえてきた。


「本当にこの先にあるのか?ただの森じゃないか。」

「そのはずだ。数日前に感じた大きな力は、確かにここから発せられていたんだ。あれは、普通じゃない。そういうのが起きるのは、何かお宝がある証だ!俺の中のハンターの血が、そう叫んでるんだ!」

「そうだぜ。しかも、ここに来るまでも結界や罠がいっぱい張ってあったじゃねーか。これは絶対、何かあるぜ。」

「へへへ。何が出ても、俺がぶっ倒してやるよ!」


3人?いや4人か。何やら不穏な会話をしている。とっさに木の後ろに隠れて、そっと様子をうかがうと、盗賊のような恰好をした、4人の男の姿が見えた。中には大きな武器のようなものを持った者もいる。


「ここで行き止まりか?」

「いや…。ただの崖に見えるが、なんかある。良く分かんねーが、なんかされてるな。これ。」

「魔術か?」

「おそらくな。でも、複雑すぎて良く分かんねー。」

「とりあえず、殴ればいい?」

「ちょっと待て。今、解析してるから。」

「お前はそうやってすぐ、手が出るんだから。ちょっとは大人しくしとけ。」


どうやら、向こうからこちらは見えていないようだ。こちらからは見えているのに不思議である。


魔術がどうのと言っていたから、おそらくアウラさんの魔術で、この森を隠しているんだろうか。良く見ると、川を超えた向こう岸に、薄い膜のようなものが張っているように見えた。


ーーど、どうしたらいいんだ!?早くアウラさんに知らせないと!いや、でも俺迷子なんだった!取りあえず、すぐにここから離れないと…。


立ち上がろうとした瞬間、ドンッと大きな音が響いた。周りの空気がびりびりと震える。


「どうだ?」

「手ごたえはあった。あと何回かすれば破れそうだ。」

「やっぱりな。ここだけちょっと薄くなってたんだ。ここを狙え!」

「りょーかい!」


ドンッと再び空気が揺れる。


ーーまずい、このままじゃあ、あいつらが入ってくる!!なんとかしてアウラさんに伝えなきゃ…!!


森に向かって走り出そうとした瞬間、三回目の衝撃音が響き渡り、パキっという音が聞こえた。そっと後ろを振り返ると、薄い膜のようなものの一部がひび割れていて、ぽっかりと穴が空いてしまっていた。空いた穴の奥から、こちらを覗く二つの目と目が合った。


「みーつけた!」


男はにやりと笑う。汗がだらだらと流れ、心臓は破裂しそうなほど動いていた。ここから早く逃げなくちゃいけないのに、足は全く動いてくれない。そうこうしている間にも、男たちはこちらに入ってこようとしている。


ーーア、アウラさん…!!



神に祈ったその瞬間。


「あなたたち。そこから一歩でも進めば、命の保証はできないわよ。」


男たちに勇敢に言い放つ、アウラさんの姿がそこにあった。


「…遅くなってごめんなさいね。」

「い、いいえ。あの、僕…」

「大丈夫よ。ちょっと待っていてね。」


こちらに優しく話しかけるアウラさんは、いつも通りのアウラさんだった。さっきの、勇ましい発言をした人と、同一人物に見えないほどである。俺を後ろにかばいながら、アウラさんは男たちへと近づいた。


「ここは私有地、立ち入り禁止よ。ここに来るまで、いっぱい書いてあったでしょう?」

「そんなこと関係ないね。私有地だろうがなんだろうが、財宝があれば、どこにでも行くさ。」

「そうだ!一人で宝を独占しようったって、そうはいかねえぜ。」

「ふぅ。あなたたちは盗賊?ここにお宝なんてないわ。分かったら、すぐに帰ってくれないかしら?」

「そんな訳ねーだろ!こんな結界張っておいて、何もないなんてあり得ねーだろ!」

「そうだ!それにこの前、ここから強い力を感じたんだ!なあ、そうだろ!?」


男が、仲間の一人に声をかける。さっきまで、魔術がどうのと言っていた男で、おそらくその男が魔術師か何かなのだろう。


しかし、その男は目を見開いて固まってしまっていた。


「おい、どうしたんだ?」

「……ろ。」

「あ?なんだって?」

「に、逃げろ!今すぐここから逃げるんだ!この中に入ったら、やばいことになる!」

「は?どういうことだ!?」

「そうだぜ、お宝は目の前じゃねーか!」

「宝なんてどうでもいい!あれは、やばい…。早くしないと…。」

「…あなたは、視えるのね。」

「何言ってやがんだ?もういい!こいつはほっといて、あの女、やっちまえ!!」


そう言って、魔術師以外の男たちが一斉に襲いかかろうとした。しかしーー。


次の瞬間、魔術師以外の男たちは、全員仰向けに倒れこんでいた。


立ちすくんでいた魔術師の男も、その場に崩れ落ちる。


突然のことで、何がどうなったのか、まったく分からなかった。


ただ、目の前にいるアウラさんの右手が、体の前に突き出すように上げられているのを見て、アウラさんがなにかした、ということだけは分かった。

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