第四傷 最期の、最期の復讐と約束 第36話
家から火葬場へ移動するため、きいろは親が運転する車に乗る時、零がきいろに声を掛けた。
「ちょっと、いい……?」
「……」
きいろは話す気になれず、車に乗り込んだ。
ドアを閉める前に、零が慌てて補足をする。
「わ、わたし、沙々くんが電話した理由も、走った理由も、コンビニに行った理由も、全部、知ってるのっ」
「は?」
――そうだ、この女が沙々の死ぬ直前まで一緒に居たんだった。
きいろはドアを閉める手を止め、車から降りた。
「……お母さん、ちょっとだけ待ってて」
そう言い残すと、沙々の家の裏に零を連れ込んだ。
「それで、どういうこと?」
きいろは零に言い寄った。
「待って、最初から、順番に話す、から。順序が、ある、から」
――順序ね。
「じゃあ、なるべく手短に」
零はこくこくと頷く。
「じゃあ、肝心、なところから話す、ね」
「何?」
「沙々くんは……九十九
――はい?
きいろは一瞬、固まる。
カラスが一斉に飛び立ち、泣き散らす。縁起が悪い。
――沙々が利一を好き? 男同士なのに?
「おかしいって、思った?」
「……うん」
言い当てられ、きいろは不本意ながら素直に頷く。
「沙々くんに言質とってあるし、理由も聞いたこと、あるよ」
――わたしだけが知らなかったってこと? なんで?
「お、怒らないで、続きがある、から」
零はきいろの心境を察して、慰めるように言った。
きいろは黙り、聴くことに専念する。
「栗栖クリスさん、九十九くんに告白された、でしょ」
きいろは目を見開く。
――どうして、知ってるの?
「やっぱり、ね」
きいろの分かりやすい反応に、零は胸を撫で下ろした。
「それで、ね。勉強会の日、九十九くんにケンカをしたから栗栖さんと二人切りにしてほしいって頼まれた、の。多分、告白の返事を訊くため、でしょ?」
「じゃあ、利一がコンビニに行けって頼んだって言うの?」
「……そうだよ。だって、そう言われた、から」
その答えに、怒りが大波のように込み上げてきた。体毛全てが逆立つ怒りを覚える。
「そう……じゃあ利一のせいのね。あいつがくだらないこと返事が聞きたいがために、沙々をコンビニに行かせたんだ。
しかも沙々は
「そう。だから、告白の返事をされちゃうと沙々くんは焦って、走り出したんじゃ、ないかな」
「…………そんなの、全て、利一のせいじゃない‼」
「でも、告白を受けた栗栖さんにも責任はあるよ、ね。
だって、すぐに断ればよかったじゃん。
そうすれば、こうはなからなかった、よ」
零の言葉がきいろの胸を強く刺した。物理的な痛みと勘違いするほどに激しく痛い。
「わたし……わたしのせいなんだ……わたしと利一のせい……」
きいろは地面に視線を落とし、もがもがと口を動かした。
――わたしが告白の返事を早くにしていれば……利一をキープするようなことをしなければ……。
「……さん、栗栖さん。親御さんに呼ばれている、よ」
きいろは怒りで我を忘れていた。母親の呼び声にも気づかないくらいに。
「じゃあ、わたしは、これで」
そう言って零は、その場から消えて行った。
きいろは険しい顔つきで、車に乗り込む。
「何してたの、早く行くよ」
「うん」
母親に急かされ、シートベルトを力強くしめる。
――わたしがやるんだ。わたしが沙々のけじめをつける。
きいろは決意を固め、自分と利一への復讐の火蓋が切って落とされた。
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