第二傷 重症、重症からの新しい絆 第22話

 休み明けの月曜日、きいろは教室に零が登校してき途端、零に話しかけた。

 零が避けようする素振りを見せたが、逃げる暇をあげない。


レイさん、だよね。沙々の


 零が彼女であることを強調して、わざと大声で言った。

 その言葉がクラス中に響き、騒然とする。

 瞬く間にきいろの言葉が広がり、口々に零を貶すような言葉が行き交った。

 零にカースト上位層のきいろが話しかけているという事態にも驚く人がいた。


――よし、これで一つ用は済んだ。


「今度、沙々と利一とわたしで勉強会をするんだけど、それに兼ねて利一の優勝祝いもするし、零さんにお礼をしたいから一緒に沙々のうちに来ない? 今度の土曜に予定してるんだけど」


「あ、えと……」


 零は試合の日とは人が変わって、うつむき加減でボソボソと言った。

 あの場で恋人宣言をした女とは思えない。


 するときいろは背後から肩を強い力で掴まれた。

 反射で「痛っ」と声が出る。


「何?」


 後ろを振り返ると、肩を掴んでいるのは鬼塚 還太朗オニツカ カンタロウだった。

 学年でも折り紙付きの不良で、同じクラスなのできいろも認知している。

 授業態度が悪く、いつも居眠りをしているので、直接の悪さをしているところは見たことがないが、存在自体が風紀を乱している。

 ケンカが強く、傷一つない不良というウワサがある。


「手、放して」


 そんな還太朗にも怯まず、きいろは腕を掴む。

 けれども、腕はびくともしない。

 男性と女性の力の差を目の当たりにし、じわじわと恐怖が芽生える。


「何勝手にコイツに話しかけてんだ。

 ハブるって決めたの知ってるよな」


 還太朗は怒りをあらわにし、肩を掴む力を強めた。

 きいろの肩の骨が軋む痛むがする。

 けれど、怖くて口が縫い付けられたように動かない。

 その時、救世主が入った。


「手、放して」

 

 登校してきた沙々だ。


「はあ? てめぇ、誰に向かって口きいてんだ」


 沙々は即座に頭を下げた。

 一瞬怯む還太朗の隙を狙って、言葉を続ける。


「零さんに話しかけたことは謝るよ、ごめん。

 これ以上、零さんに学校内で話かけることはないから、今回は見逃して欲しい。

 だから、それ以外は僕らの自由にするよ。

 不快な思いをさせてごめんね。これからは決まりを守る。

 その手を放して」


 その言葉を聞いたクラスの一同は、本当に沙々と零が付き合っているのだと確信し、更にコソコソ話がヒートアップする。

 周りの視線が痛い。

 還太郎は、舌打ちをした。


「わーったよ。今後一切禁止だからな。憶えておけよ」


 そう言い放ち、きいろから手を放し教室から去った。


 還太朗が教室から遠のいたことを確認すると、教室から拍手が湧いた。


「あの鬼塚に言い返すなんてスゲー」

「鬼塚が引いて帰ったぜ」

「女子のために身体を張って謝るだなんて、中身もイケメン……」


 沙々は何事もなかったかのように、自分の席に着席。

 きいろは還太朗がいなくなったことをいいことに、再び零に話しかけた。


「じゃ、今度の土曜に駅前集合で、朝九時ね」


「…………」零は口を開かぬまま、一回だけ頷いた。


 それからきいろも何もなかったかのように、颯爽と自分の席に戻る。

 あまりにもきいろが飄々としているので、周りは声をかけずらいらしく尻込みしている。


「ありがと」


 そっぽを向いて、きいろは言った。


「……? どうしたの? 最近、きいろちょっと変だよ」


 沙々は首を傾げる。


「どこが?」きいろがつっけんどんな口調で訊く。


「なんか……態度」


「……なんで変わったのか、自分で考えて」


 きいろとしては、彼女ができた男友達との接し方を変えなければいけないという暗黙のルールを守り、距離を置いておきたのだ。

 それに今は傷心中であまり二人切りで話たくない。

 だけれど、恋愛はおろか、人間関係初心者の沙々は暗黙のルールなんて知る由もなかった。

 それを分かった上で、きいろは沙々を突き放した。


――今は極力、利一のことだけ考えよ。本気でってくれたみたいだし。

  でも、今更、利一を恋愛対象として見れるかなあ。

  沙々みたいにお試しで付き合うのもアリかな。

  でもそれって相手に失礼じゃない?

  それに、わたしそんな器用なことできないよ……。


 そうモヤモヤと考えているうちに、担任がやってきてホームルームが始まった。

 それによって、先の還太朗の衝突事件の熱はクラス内でも冷めていった。

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