第二傷重症、重症からの新たな絆 第20話

 力戦の末に、利一は決勝まで勝ち進み、決勝では粘り勝ち。

 怪我が利一の実力のストッパーになっていたのだろう。

 周囲はまさか一年生が優勝するとは思わず、驚きの声、賛否の声、嫉妬の声などで渦巻いていた。




 決勝が終わった後、きいろは一番に医務室へ向かった。

 医務室の前できいろは深く深呼吸する。

 複雑な感情に蓋をして、利一の優勝を喜ぶ自分を思い描いてからドアを開けた。


「沙々、利一優勝したって‼」


 元気ハツラツにいつものきいろを取り繕う。


 椅子に座っていた沙々は立ち上がる。


「ホント? よかった……」


 利一は胸を撫で下ろし、椅子に腰を下ろす。


「うん。もう脚が全快したから、どんどん勝っちゃってさ、面白かったよ」


「利一は強いもんね」


「うん……」


 その次が継げず、沈黙が流れる。

 きいろは真剣な顔つきで、零の眠る零を間に置いて、椅子に座った。


 零はベットに横たわり、医務室には毛布がなかったので、沙々のフレンチコートがかけられていた。

 まだ目を覚ます気配はない。


 最初に痺れを切らし沈黙を破ったのはきいろだった。


「ねえ、太刀川タチカワさんと本当に付き合ってるの?」


 その言葉に沙々は、ハッとした顔をしてから零に視線を落とした。

 その行動で大体のことは察しがつく。

 けれど、沙々の口から聞いてみたい。

 きいろは沙々が答えるまで、じっくり待った。


 たっぷり黙ってから、沙々が口を開く。


「……うん、相手から付き合おうって言われたから、付き合ってる」


「そう……」


 きいろはうつむき、ネイルシールを付けてきた手を固く握った。

 

「いつから……?」



 沙々は気まずそうに、けれど真摯に応えた。


「つい最近のことだよ。保健室で会って、告白されたんだ」


「どうして黙ってたの?」


 やや口調が強くなる。


「それは……黙っててほしいって言われたから言えなかった。ごめん」


 謝られるとこちらが悪いことをしたみたいで分が悪くなる。


「そっか。でも、どうして付き合ったの?」


 次々と質問が溢れ出てくる。

 試合中に貯め込んだ疑問をぶつける。


「それは……」とまた間が少し開く。


 そんなに言いづらいことなのだろうか。変にかいくぐってしまう。

 それでもきいろは沙々の言葉を待った。

 嘘でもいいから、沙々の口から真実を聞きたい。


「それは……普通の高校生みたいなことだから、試しに付き合うことにした。言ってなかったけど、そういうの憧れてたし」


「じゃあ、まだお試しなんだ」


「うん。まだ出会ってばっかだから」


「そ……わたし、片付けの手伝いに行くね」


「きいろ……」


――今、名前呼ぶとかズルい。


 きいろは限界がきて、後ろ髪を引かれつつも席を立つ。

 医務室のドアに手を掛けると感情が一気に爆発し、我慢していた涙がこぼれる。

 すぐに涙を拭って、元気なきいろに戻るよう言い聞かせ、外に出る。




「きいろ」


 医務室からでると、そこには利一が廊下のベンチに座り、きいろを見ると立ち上がった。


「どしたん、泣いてる?」


 笑顔をつくっていたつもりだった。

 鋭い質問にきいろはかぶりを振った。


「ううん、目にゴミが入っただけ。わたしも片付けの手伝いしようと思ってたとこ

利一は?」


「あの、助けてくれた子、目覚ました?」


「まだみたい。お礼はまたにした方がいいよ」


「そっか……そうする。あのさ、俺、きいろに話があるんだ」


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